カラクリピエロ

苦労人


※久々知とはそれなりに仲良し




「土井せんせー、火薬お願いします」
「おー、名前か。個人練習用か?」
「正確には立花先輩の手持ち用です。先輩が申請出してると思うんですけど」
「委員長のおつかいか」
「そうなんですよ」

名前は人がいいなあ、と笑顔で言う土井先生。
いい方に誤解してくれてるのに水を差す気は起きず、下心ありなんです、とは言わないでおいた。

先生は私に少し待つように言って、出席簿の間から紙の束を出す。
火薬在庫の管理表だろうか。それをぺらぺらめくりながら蔵の方へ足を向けた。

「焔硝蔵は火気厳禁だぞー」
「持ってませんよ、ほら」

装束のあわせを引いて懐にも入ってません、と示したら土井先生はぎょっとして一歩離れた。

「こ、こら!お前はもっと慎みを持ちなさい!」
「土井先生ったら、そんなんだからくのたまの先輩たちに“可愛い”ってからかわれるんですよ」
「うるさい。山本シナ先生に言いつけるぞ」
「ちょ、上着めくっただけじゃないですか!」

火薬委員のお約束を述べる土井先生に“火気なし”と証明しただけで山本シナ先生まで引き合いに出してくるのは酷い。
抗議すると先生は蔵の壁に手をついて胃を押さえ、ぐったりした調子でため息をついた。

「私が取って来るからおとなしく待っていなさい……」
「いいんですか?ありがとうございます」

前傾姿勢がとても辛そうだ。
――そういえば。

「土井先生、これ差し上げます。胃に効く薬つくってみたんです、試作品ですけど」
「いらん」
「信用してくださいよ」
「試薬の時点で信用ならん!」

そこまでキッパリ言い切らなくても。
試す機会がなかったから試作品のままなのに。是非とも先生に使ってみて欲しかった。

中でゴソゴソ音を出し始めた先生を待つのに壁に寄りかかりながらしゃがむ。
他の委員の子は来ないのかと思っていたら、ふっと影が落ちてきた。

「何してるんですか」
「三郎次!土井先生待ち。倉庫入れてもらえなくてさ」
「火気厳禁です」
「持ってないよ。先生にもこうやって持ってないって証明したのに……三郎次?」

立ち上がり先程と同じ動作をしてみれば、三郎次は大分遠い位置に移動していた。

「な、な、なにしてるんですか!!」
「さっき言ったでしょ、土井先生を」
「そうじゃありません!もう、久々知先輩にも同じことできるんですか!?」
「無理だよ恥ずかしい!」
「その恥ずかしいことをどうして僕らにやるんですか!」
「……はい、ごめんなさい……」

あれ、どうして私二年生に説教されてるんだろう。
しかも勢いに押されて正座しちゃったんですけど。

「――そもそも苗字先輩はですね、」

私は突然始まった三郎次の説教を長々と(久々知くんが通りかかってくれるまで)正座で聞くことになってしまった。

久々知くんに事情を話せば「あー…」と苦笑とともに納得したような相槌を打たれるし(女らしさの欠如は深刻らしい)足は痺れたし火薬は重いしで、よかったことといえば久々知くんが火薬を運ぶのを手伝ってくれたくらいだ。

――はい、おつりがくるほど嬉しかったです。三郎次説教ありがとう。

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