カラクリピエロ

前略、くじけそうです++



※鉢屋視点





くのたまによる忍たま襲撃の日、気まぐれに名前の姿で遊んだのはいいが周りの評価は散々だった。
雷蔵も八左ヱ門も容赦なく扱き下ろすし、兵助に至っては殺気まで感じたほどだ。
まあ珍しいものを見られたうえ、反応は中々面白かったから後悔はしていないが。

揃いも揃って“名前はそんなことしない、言わない”と主張するのを覆してみたいとは思う。だって面白そうだ。

「なぁ名前
「んー?」
「兵助を喜ばせたくないか?」

そう口にした途端、読書に没頭していた名前はぱっと顔をあげ、私の方を向いた。
疑問を含んだ探るような視線。あえて何も言わずに見返したら、名前は苦虫を噛み潰したような顔で「信用できるの?」と呟いた。
まったく、こいつは私を疑うことしかしないのか。

「うまくやれば兵助がときめく」
「…ほ、ほんと?」
「お前次第だな」

――ちょろい。
乗り気を見せた名前にダメ押しで笑みを向けると、名前は両手をぐっと握って頷いた。

「まず私が手本を見せるから真似するように」
「はい先生」

きっちり姿勢を正して正座する名前は、常の態度が嘘のように“良い子”な反応。
内心戸惑ったが、このくらいの動揺なら名前程度は騙せるはずだ。

「…三郎が先生って似合わないなぁ」
「というか、何を始める気なの」

私と同じく委員会がない勘右衛門と、図書当番じゃないらしい雷蔵が野次を飛ばしてくる。
兵助が戻ってくるまでに仕込みを終わらせる予定だから、そっちに構っている暇はない。
反応しないままとりあえず名前に変装すると、名前はぎょっと目を見開いたあと嫌そうな顔をした。

「…先生、やるって言いましたけど、やっぱりやめたいです」
「兵助がドキッとするの見たくないのか」
「そりゃ、見たいけど!」
「『こ・の・正直者』」
「いっ!?」

声真似しながら額をちょんちょんとつついたら、名前は飛び退る勢いで一気に距離を置いた。
口をパクパクさせて戸惑うように私と雷蔵と勘右衛門の顔を順に見る。

「三郎……僕それやめてって言ったよね?」
「げ、前にもやったのこれ。名前に化けてるのは見たことあるけど」

げ、とはなんだ勘右衛門。私の演技力を甘く見るなよ。
顔色が悪くなっている名前を視界の端に捉えながら、腕を組んで『もう!』と膨れたら、万力鎖がとんできたから慌てて避けた。

「な、なにをするんだ勘右衛門!死ぬだろ!!」
「あ。ごめん、つい」

あは、と笑って見せるが、その目は笑ってない。
旗色が悪いと判断した私は、仕切り直しをするように軽く咳払いをして名前へ向き直った。
ビクッと震えて雷蔵の後ろへ避難する名前に片手を腰に当てて溜息をつく。
これでは私が悪者みたいじゃないか。

「とりあえず変装解こうか」
「断る」

名前を宥めている雷蔵の提案を叩き落すと、呆れをたっぷり含んだ半眼で見られた。

た、例えその顔で『うわぁ、そういう趣味だったんだ…』と言われても引き下がる気はないからな!
同じことを名前にやらせて本人に直接“こんなの名前じゃない”と言わせてやる。

「ふっふっふ…」
「三郎きもい」
「だから!どうしてお前らは私にそう容赦ないんだ!」

「「三郎だから」」

同時に返された内容に舌打ちし、これではいかんと思い直して深呼吸。

にっこり笑顔をつくって名前を手招きすれば、チラチラこっちの様子を伺っていた名前は複雑そうに自身の胸元を握った。

甘えた動作はともかく、この笑顔には自信がある。名前もなんとなく認めているんだろう。
自分は傍から見たらこうなのか、って顔だもんな。

「『名前ちゃん、こっちおいで』」
「や、やだ」
「『そんなこと言わないで、ね?』」

「う、うわぁ…やばい、鳥肌やばい…!」
「…声も顔も動作もそっくりなのにね。中身が三郎ってだけでさ」
「それが一番悪いんだよ。っていうかこうして見ると体格全然違うし」

ごちゃごちゃ騒いでいる二人の方へ寄って、自分から名前に接触する。
腕を掴むと咄嗟に逃げようとしたのか、後ろの棚に頭をぶつけていた。

「『ふふ、だいじょうぶ?おまじないしてあげようか』」
「…………お、お願いだから、それ、」
「『うん、任せて!痛いの痛いのとんでけ~♪』」

名前の訴えを途中で遮って後頭部に手を添える。
硬直しっぱなしの名前の頭を撫でながら口ずさんだら、私が後頭部を殴られた。

衝撃で前――つまり名前の方へ傾く。額が名前の肩に衝突した勢いで、また名前は頭をぶつけたようだった。

「や、やべぇ…あまりに衝撃的な絵面につい…」
「ばっか、八、名前まで巻き込んでどうすんの!!」

聞こえた声は八左ヱ門と勘右衛門のもの。
生物委員の仕事は終わったのか。
というか帰ってきて即殴るとか野蛮すぎるだろ!

不満を覚えながらも身を起こせば、予想通り後頭部を押さえて蹲っている名前が、私の耳元で痛そうな唸り声を上げる。
この距離ならちょうどいいだろう。
私は小さく「今のようにやるんだぞ」と告げて、名前に真似た髪をサッと後ろへ払った。

「え…あの、い、今のようにって…?」
「『ん、もう!だーかーらぁ、久々知くんに実戦しろって言ってるの』」
「は…………はぁ!?そ、その甘ったるい喋り方を!?実戦!?」
「『態度もだぞ』」
「無理」

パチン、とウィンクで付け足したら表情を消した名前が即座に言い切った。

「だ、だってみんなドン引きだったでしょ!じ、自分でも、気持ち悪いって、思うし…!!」
「馬鹿、お前なら大丈夫だ」
「全然説得力ないんですけど!?」

ええい往生際が悪いぞこいつ。
これでは私の望む展開に持っていけない。

「兵助なら喜ぶ」
「う、嘘でしょ!」
「本当だって。この前『そういうのもいいな』って言ってたのを聞いた」

中々決断しない名前に焦れながらも説得を試みる。
急に頬を染めて顔を逸らした名前に驚いたが、なんのことはない。兵助の声に反応しただけだろう。

ともかく今ので少し気持ちが動いたらしい名前が迷うそぶりを見せている。

――あと一息。

「でも、あんなの、できないよ…」
「実習でやらないのか」
「……赤点」

ポツリとこぼれた単語に溜息をつきたくなるのを堪える。
落ち着け。ここが勝負どころだ。

「じゃあ私が指示してやるから」

「――なんの話だ?」

この声は。
ぎこちなく振り返ると、戻ってきたばかりらしい兵助が、私たちの方を見て眉間に皺を寄せるところだった。
てっきりまた攻撃でもされるのかと思ったが。

そのまま観察していると私から視線を逸らすから、ピンときた。
私は、まだ、名前の格好のままだ。

「…なあ兵助」
「その格好で寄ってくるな」
「『久々知くん、そんな言い方…』イっ!?こ、この!後ろからはやめろ!!」

ギクリと固まった兵助をからかって遊ぼうと思ったのに、飛んできた何かで素に戻らざるを得なかった。
バサ、と音を立てて落ちたそれは名前が読んでいた本。だが、投げ終わった姿勢なのは雷蔵しかいない。

「……念の為聞いてみるが、今のは」
「うん、僕」
「止めるならもっと穏便に止めてくれ!」
「さっき名前とごちゃごちゃやってたみたいだけど、名前を巻き込むのはやめなって」
「……こうなったらしばらくこの姿でいてやるからな……」

もう自棄だ。
恨みがましく言うと揃いも揃って“それはやめろ”と言われた。生憎だが、言われれば言われるほど逆らいたくなるタチなんだ私は!

名前、ちょっと耳を貸せ」
「で、でも…」
「いいから。まずは腕にしがみ付いて上目遣いで目を見ながら“おかえり”だ。行け!」

強引に腕を引いて素早く指示を伝え、やや強く背中を押した。
よろけながらも振り返る名前が泣きそうな顔をする。そこまで苦手か。
なんだか白い目が私に集中している気もしたが、無視してやれと合図した。

「…く、久々知、くん」
「大丈夫か?三郎の言うことなんて大体碌なもんじゃないから、従わなくていいんだからな」

――好き勝手言ってくれる。

口を挟みたくなるのをぐっと堪える。
名前は兵助の装束、その袖口を小さく握っている状態で(腕だと言ったのに)、忙しなく視線を泳がせていた。

名前?」
「あの…、お、おかえり」
「え、あ、うん…た、ただいま…」

なぜだ。
名前は最初の行動以外ちゃんと私の指示通り動いたはずなのに、なんだか思っていたのと違う。

照れ笑いで返す兵助を確認して“すごい”って顔でこっちを見るな名前。私はそんなつもりじゃなかったんだ。

「チッ」
「三郎、お前何仕込んだんだ」
「……秘密だ」

ドン、と肘で私をつついてくる八左ヱ門にジト目で返すと、溜息混じりに「やっぱ三郎だわ」と返された。

名前!」
「は、はい先生!」
「先生?」
「馬鹿、それはもういい」

畏まる名前を呼び寄せるものの、今ので雷蔵と勘右衛門に感付かれたかもしれない。
思い切り不審そうな顔をする兵助の傍を離れ、寄ってきた名前の肩に腕を回すと(痛いの悲鳴は無視だ)「今度はウィンクしてみろ」と指示。

「できない」
「またか!ちょっとやってみろ」
「だから、できないって言ってるでしょ!!」
「やらないうちから諦めてどうするんだ、ほらこう」

パチン、と見本を見せてやると、ムッと眉根を寄せていた名前が渋々といった様子で実戦して見せた。

「…ん、」
「両目を瞑ってどうする」

片目を開けさせようと目元を押さえたら、指で押し上げる前に名前が逃げた。
――いや。正確には、兵助が引っ張った、だな。

何が起こったかわかっていない名前が素早く目を瞬かせ、直後に固まった。
まぁ、兵助が抱えてる状態だから、そうなっても仕方ないかもしれない。

私は私で左に雷蔵、右に八左ヱ門状態で腕を取られ、ずるずる引きずられている有様。

「…おい、どういうことだこれは」
「なんかもう見るに耐えないっつーか」
「変装解かないなら隔離しておくしかないかなって」

そこまでするか。
ギリリ、と歯噛みしながらふと名前を見れば、あいつは相変わらず真っ赤なまま勘右衛門から「名前は無防備すぎ」と説教されている。
兵助は正座する名前の隣で不機嫌そうに同意を示していた。

まったく、私が修羅場っているというのに。

「うーん…どうしよう…布でも被せとこうか」
「そもそもお前たちが、鳥肌だの気持ち悪いだの言うから、」
「でも事実だし」
「なぜだ!この差はなんだ!?」
「お前が三郎だからだよ」
「そんな理由で納得できるか!!」

騒いでいたらせめて髪型でも変えたらいいんじゃないか、と不穏な流れになり、渋々いつもどおりの雷蔵の変装に戻した。

「くそ…」
「ねえ三郎、悪いこと言わないからさ、今後名前に変装するのはやめておきなよ」

雷蔵から諭すように言われたが、私は頷かなかった。
変装名人として引くのは癪に障る。

いつかリベンジすることを心に誓い、変装術に磨きをかけるべく決意を改めた。





プチリク消化。
「甘えた系夢主な変装の鉢屋」夢主を絡めて。とりあえず鉢屋が5年に雑に扱われている感じ、でした。 お茶目な三郎は被害率が格段に上がりますね!
畳む


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