生物委員会(閑話:久々知)
木下先生へ忍務の報告を終えて部屋の戸をくぐり、緩く息を吐き出す。
なんだかんだで自分の部屋が一番落ち着くなと思いながら室内を移動していたら、むくりと勘右衛門が起きあがった。
「おかえり」
寝ぼけ声で迎えられて反射的にただいまと返す。
「悪い、起こしたか」
「おきたんだよ」
くぁ、とあくびをもらして灯りをつけてくれたおかげで移動も着替えもしやすいが、どういう風の吹き回しだろう。
いつもなら気まぐれに起きて挨拶したとしても即寝直すくせに。逆の立場なら俺も同じようなものだけど――
「…何かあったのか?」
「んー…毒虫騒動、秘密特訓、明日はデート」
「…………は?」
着替えながら聞けばわけのわからない単語を並べられて不躾に聞き返す。
さっさと寝る準備をしてしまいたいのが半分、意味深な内容が気になる、で半分だ。
「毒虫騒動については名前に直接聞いて」
委員会活動の話か、と思いながら頷きつつ残りの二つも彼女に関することかとあたりをつける。
勘右衛門は布団の上にあぐらをかいて「明日空けとけ」と唐突に言った。
「元から休むつもりだったけど、勘右衛門は実習だろ?」
「おれじゃなくて名前。兵助が寝不足なの気にしてたから昼ごろかなぁ…」
起きたとはいえ、半分寝ているようなものかもしれない。
いまいち要領を得ない勘右衛門の話を聞いていると溜息をつきたくなってしまう。
「名前が昼過ぎに会いに来るってことでいいのか?」
「うん。そのための特訓だし…ま、あんまり役には立てなかったけど」
最後の方はあくびに紛れて聞き取りづらく、相変わらず何を言っているのか汲み取りづらい。
たぶん…名前が会いに来るのは俺と話をするためだろう。昼は結局何も聞けなかったから。
彼女がしてくれる話は十中八九見合いの件で、正直心穏やかに聞いていられる自信はない。
だけど“名前から話してもらう”のが大事だと思うし、懸命に絞りだそうとしていた彼女の言葉をきちんと待ちたいと思う。
――それを聞いた上で俺がどう行動するかは俺の自由だ。
既に布団に潜り込んでる勘右衛門を見ながら、まだ確認しきれてないと問いつめたくなったが……こいつらは朝から実習なんだよなというのを思い出してやめた。
灯りを戸口に移動させ風呂場へと向かう途中で、唐突に迎えに行こうかなと思った。
どうせ朝は勘右衛門が起きだす音で一緒に起きるだろうし、その時間なら名前も起きだして間もないはずだ。
きっと驚くだろうな、と彼女の挙動を想像して勝手に顔が緩んだ。
+++
「…予想以上に騒がしい」
「あれ、おはよ。まだ寝てれば?」
「勘右衛門がうるさいんだよ」
「ごめんごめん!そうだ兵助、帰りにさ豆大福買ってきて!名前に委員会で行ったとこって言えばわかるから」
「あ?」
「頼んだからねー!」
さっさと準備を済ませて部屋を出ていく間際、またわけのわからないことを言い残された。
ゆうべの会話の続きかと思いながら着替えを済ませて顔を洗っていると、不意にデート、という単語が脳裏に浮かんだ。
「……デートって、そういう?いや、でも…話、するんだよな…?」
秘密特訓。明日はデート。
寝ぼけ眼で伝えられた内容と先ほど勘右衛門が置いていった内容を思い返す。
――期待してもいいんだろうか。
手ぬぐいで顔を拭いながらゆっくり息を吐き出して、一度頭を振る。
だけど一度湧いた期待は消えず、胸の奥に固まっているような気がした。
-閑話・了-
委員会体験ツアー!の段 -生物-
1473文字 / 2012.06.26up
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