カラクリピエロ

生物委員会(1)



ここ最近、常に持ち歩いている巻物を取り出して広げ、一緒に巻いてあった一覧を眺める。
今日からは四つ目――生物委員会に参加する予定だ。

期間は最長の五日間。
ここぞとばかりに手伝わせる気満々の竹谷に内心舌打ちしたくなる。

(…そりゃ、私は飼育小屋によく行くし犬の訓練に参加したりもしてるけど)

――あくまで、これは体験ツアーだ。
ちょこっと活動の内容に触れて、へーこんなことしてるんだ、で終わらせるイベント(のはず)だ。
なのに、この生物委員…おまけに図書、会計で予定されている日程は明らかにこき使う気としか思えない。

潮江先輩は堂々と公言してたから予想の範囲内だとしても、中在家先輩は意外すぎた。

期間を決めたあの日のうちにちゃんと気づけていれば、間違いなく文句を言っていたに違いない。
浮かれていてそれどころじゃなかったし、今になって思ってもどうしようもないけれど。

ぐしゃ、と予定一覧を握ってしまい「あ」と思わず漏らしたところで、後ろから声をかけられた。

「お前は相変わらず、一人でも楽しそうだな」

言いながら楽しそうに笑う立花先輩に、反射的に眉を潜めてしまう。

「…いつから見てたんですか」
「“竹谷め”と怨念めいた声を漏らしていたところから」
「もっと早く声かけてください!!」
「考え事の邪魔をしたら悪いと思ってな」
「ありがとうございます、さすが立花先輩ですね。用件はなんでしょうか」

しれっと思ってもないことを口にする先輩(絶対面白がってただけだ)に、棒読みの皮肉全開で返したものの、先輩は全然気にした様子もなく笑顔のまま「日取りを決めた」と端的に言った。

「本日、委員会の時間、久々知に作法室へ来るよう伝えろ」
「え!?久々知くんは火薬委員会が」
「私がそれを考慮していないと思うか?」

フッと涼やかに笑った立花先輩が、わざとらしく髪を払う。
ここまで嫌味なポーズが決まるってすごいな、と関係ないことを考えながら、先輩に続きを促した。

「火薬委員会の活動は休みだ。疑うなら土井先生に聞いても構わんぞ。まあ久々知自身が知っていると思うがな」

呆然とする私の頭にポンと手を置いて、頼んだからなと言い残した立花先輩はそのまま髪を揺らして去っていく。
私は言われた内容と自分の予想の食い違いに混乱しながら、五年い組を目指した。

+++

「久々知くん!」

ダンッ、と思いっきり五年い組に踏み込んだことで注目を集めてしまったようだけど、それを気にしている場合じゃない。
室内にいるものと思ってキョロキョロしていたら、い組の人が「久々知なら、土井先生に呼ばれてるから居ないよ」と教えてくれた。

見つからない原因がわかってホッとしながらお礼を言ったはいいけれど、捜しに行ったらすれ違ってしまうかもしれない。
運悪く勘右衛門も厠に行ってるみたいだし、いっそ『ろ組』に――

「あれ、名前?」
「勘右衛門!よかった、中で待たせて!」
「え。ちょ、ちょっと名前!?」

さすがに見知らぬ忍たまに囲まれて堂々と居座る度胸は無かったけど、勘右衛門が一緒なら。きっと『い組』の人たちも安心するだろうし。

「一応、学級委員長だもんね」
「悪かったね、らしくなくて……どこ行くの」

教室の隅でひっそり待たせてもらえればそれでよかったから(注目されるし)、そっちへ行こうとしていたのに、途中で腕を強く引かれて座らされた。
当然のように隣に勘右衛門が座り、広げっぱなしだった教材を片付け始める。

そういえばこの席って――

「…………やっぱ目立つよなぁ」

溜息をつきながら、勘右衛門が何か言ってる。
独り言のようなそれを耳に入れたものの、聞き返す余裕がない。
私は自分がいる場所を自覚して、ドキドキしながら“にんたまの友”って書かれた冊子を裏返した。

――五のい 久々知――

簡単に書かれた名前を目に入れた途端、何故か緊張する。
いつもはここに久々知くん自身が座って授業を受けてるんだなぁと思うと落ち着かない。

「……あのさ、名前
「は、はい!!」
「すっごく今更じゃない?」
「そうなんだけど…わかってるけど、座ったことは、なかったから…」

実を言うと、座ってみたいなと思ったことはある。
でもいつもは久々知くん自身が座ってるし、わざわざ“座らせて”なんて頼むのもどうかと思うし、第一頼むのが恥ずかしい。
だから、それがこんな簡単に叶うなんて思わなかった。

じっとしていられなくて乱雑に広げられた教材を片付けて隅に寄せる。
そわそわしながら勘右衛門を見ると、静かになってしまった彼は片手で顔を覆っているところだった。

「勘右衛門?」
名前ってほんっと兵助が好きだよね」
「……うん、すき」

勘右衛門が微妙に投げやり気味なのは置いといて、否定する理由も意味もなかったから頷く。

顔熱いなぁとか、今赤くなっちゃってるだろうな、と思ったところで、室内で派手な――何かがぶつかって倒れたような――音がした。
次いで、大丈夫かと心配する声や笑い声、珍しいとからかう声が聞こえる。

「あーあ……名前のせいだよあれ」
「え、私?なにが!?」

呆れたような言葉とは裏腹に、勘右衛門は楽しそうに笑っていた。

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