カラクリピエロ

ペット志願の勘右衛門 室町ver.

こんな鬱蒼とした山奥に入り込む人間なんて滅多にいない。
よほどの物好きか私の友人か客か…死体くらいかもしれない……だからそこの木の影に隠れるようにして蹲ってるのも、きっと――そう思いながら見ずに通り過ぎるつもりが、つい眼がいく。
死体だと思っていたものが僅かに動いてるのに気づいて、しれず息を止めていた。

「…………尾浜くん?」
「――? あ…れ、幻覚まで見えるとか…いよいよやばいな」

ゼェゼェと荒い呼吸を繰り返し、ぐったりと木に寄りかかっているのは学園にいたころの同級生。
へらっと笑ってみせるものの額には汗が浮いていて、明らかに顔色が悪い。
反射的にそばに座り込んで状況を確認すれば、肩から腕にかけて忍装束が血に濡れていた。

名前が刺客なら、それもいいかも……」
「なに馬鹿なこと言ってるの!」

断りもせずに装束を裂いて、血止めをしながら傷を確認する。
二ヶ所ほどあるそれはどっちも掠っただけなのか、傷自体はそう酷くないようだ。

「……何でやられたの?」
「…………銃、と…矢」

顔色を見ながら症状を聞き出して、無理やり持っていた毒消しを飲ませた。

「まだ歩ける?無理なら引きずっていくけど文句は言わないでね」
「……強引だなぁ」
「ここで死なれたら後味悪いでしょ。そういうのは私の知らないところでやって」

なかば本当に引きずりながら彼を家に運ぶ。
尾浜はだいぶ消耗しているようで、されるがままだった。

見つけてしまったから、知りあいだったから、たまたま薬を持っていたから。
頭の中で言い訳めいた理由を思い浮かべながら、同時に厄介ごとに首を突っ込んでしまったとうんざりした気持ちが湧いてくる。

――命を狙われている忍になんて、絶対関わりたくなかったのに。


+++


翌日、驚異的な回復力を見せた尾浜は色々と私に質問を投げかけてきた。
それはどれも学園に在中していたころの話で――とはいっても二、三年しか経ってないけど――久々に懐かしさを味わった。

名前って…まだ独り身?」

室内をきょろきょろしながら言われた言葉に頬が引きつる。
“つい”包帯を巻く手に力が入り、ギリギリと尾浜の腕が締まった。

「痛い痛い痛い痛い!!」
「生きてる証拠だよ、よかったね。言っておきますけど、私は好きで独りなんだから!これでも引く手数多で――」
「知ってる」

痛がりながら口を挟まれて、思わず続きを飲み込む。
尾浜はへらっと笑って呟くように「知ってるよ」と繰り返した。

「…なら、いいけど。それより動けるようなら早く出て行って」
「やだ」
「は?」
「おれさー、帰るとこないんだ。雇われてたとこには捨てられちゃったみたいだし。だからここに置いて」

あえて聞かないようにしていたことをあっさり口にしたあげく、さらっととんでもないことを言い出した。
昔から彼の考えは理解できなかったけど、それは今も変わらないらしい。

「尾浜くんがいたら邪魔なの」
「…恋人が来るから?」
「そんなんじゃなくて、お客さん。私これでも薬屋さんだから」

尾浜はきょとんと目を丸くして何度か瞬きを繰り返す。
薬、とぽつりと零し、自身の腕にそっと触れた。

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