カラクリピエロ

小松田さんと幼馴染みな町娘


お手紙です、と受け取った手紙の内容をザッと読み、私は一も二もなく家を飛び出し隣家である扇子屋へ飛び込んだ。

「いらっしゃいませ……って名前か」
「優兄ちゃん!これ、秀作!手紙!」

うんうん、と頷いた優作が苦笑気味で私の肩を叩く。
落ち着いての合図に深呼吸をして、改めて持っていた手紙を見せた。力を入れて握ってしまったせいか、中心に派手な皺ができている。

「なにが書いてあったんだい?」
「忍術学園で、チャリティバザーやるんだって」
「へえ、おもしろそうだね」
「それで、暇ならおいでって…秀作が…」

震える手の中で手紙に新しく皺ができる。
今まで近況報告(と言う名の失敗録)は貰っていたけど、こうしてはっきり招待されたのは初めてだ。
会いたいと思っていても職場に押しかけるのは迷惑だろうし、秀作も秀作なりに頑張ってるみたいだからと、自分なりにずっと我慢してた。

「いってきていいかな」
「もちろん行っておいで。というか、一緒に行こうか」

のんびり言う優作が未開封の手紙を引っ張り出す。
これは招待状だったのか、と独り言を言いながら内容に目を通していた。

扇子屋も出店しようかなぁなんて言い出してるけど、売上金は宣伝費と割り切るつもりなんだろうか…そりゃあ優作の作る扇子は文句なしにいい出来だし、いくつか固定の取引先だってあるし、一般的でない注文にも気軽に対応してくれるってことで安定してるみたいだけど。
秀作ほどじゃないにしても、マイペースな優作には時々ハラハラしてしまう。

「出店するの?」
「お得意様を増やすいい機会だしね」
「…私も手伝う」
「それは助かるけど、名前は秀作に会いにいくんだろう?」
「いいの。それに…ちょっと、照れくさいから」

これなら、ばったり遭遇したときに“優兄ちゃんの手伝いで来た”って理由が言える。
そのまま秀作に会いに来たって言えればいいけど、それはなんか恥ずかしい。
――どっちにしたって秀作はにこにこしながら「そっかぁ」で済ませそうな気もするけど。


+++


忍術学園に向かう日。
私はそわそわしすぎてあまり眠れてなかったものの、それを感じないほど元気だった。
目の前に見えるのは学園の門。ずらりと並んでいる客の先から聞こえた声にドキッとした。

「はい、確かに。ではこちらにサインお願いしまーす!」

ちら、と隣に立つ優作を見上げる。
秀作の働く姿を見て「やってるなぁ」と嬉しそうに笑う優作が、私の視線に気づいて首を傾げた。
首を振ってなんでもないと返しながら、やっぱり秀作の声の方が少し高いんだなと思う。

「あ、兄ちゃん!」
「秀作、店を出すのは無許可でいいのか?」
「それならこっちに名前と並べる商品を――……名前?」
「ひ、ひさしぶり」
「来てくれたんだ」
「優兄ちゃんの手伝いとしてだよ!」
「そっかぁ。なんか見ない間に雰囲気変わったねぇ…背伸びた?」

お前は親戚の兄ちゃんか、とつっこみたい衝動に駆られたけれど、それを寸でのところで耐える。大体、背なんて伸びてない。
そうじゃなくて、綺麗になったとか大人びたとか――秀作が言うわけないか。

名前?」
「…なんでもない。秀作、後ろ詰まってるよ」
「あ、そうだった。それじゃあ楽しんでってね。後でお店見に行くから~」

ひらひら手を振って、秀作はまた招待状と招待客の確認に戻る。
隣から聞こえた笑い声にハッとして見上げたら、優作が口元を押さえて笑っていた。

名前、お前、相変わらず、」
「だ…だって、こうなっちゃうんだもん!ちょっと、優兄ちゃん笑いすぎ!」

私をあやすようにぽんぽんと頭に手を置く優作から目を逸らす。
会いたくて来たはずなのに、どうしてこうなるんだろう。

「あ、お面が売ってるな。名前に一つ買ってあげようか」
「いらな……いらない!」

断りかけたときにその面を見て、改めて力いっぱい断ってしまった。
なのに優作は「よくできてるなぁ」と私の返事なんて聞いちゃいない。

「すみません、一つください」
「はーい。ありがとうございます」

ドクタケ忍者隊の首領の面なんて誰が――と思ったけど、隣にいた。

「ほら名前、これ被ってれば秀作にも素直になれるんじゃないかな」
「優兄…八方斎の顔で言われて嬉しい?」

私の質問を誤魔化すように、優作は自分でその面を被って「さあ、場所取りにいこう」と話題を変えた。





デレツン。
いっそ小松田兄弟夢にしたほうがいいんじゃないかって気がした。


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