※外周じゃなくて海までいった場合
海の音と匂いで着いたというのはわかるのに、なんだか離すのが惜しくてゆっくり息を吐き出す。
久々知くんが優しく私を呼ぶのと同時、自分の手を覆うように彼の手が触れて思いっきり肩が跳ねた。
「ご、ごめん、降りる!」
「…そんなに慌てなくてもいいだろ」
どことなく不満げな久々知くんの言葉を聞きながら、恥ずかしさを誤魔化すようにパタパタスカートを叩いて手櫛で髪を整える。
「帰りは名前が運転な」
自転車を止めた久々知くんが鍵をポケットにしまうのを見ていたら、こともなげに言われて動きを止めた。
「え!?」
「名前の後ろに乗ってみたい」
「だ、駄目だよ危ないもん!」
私を追い越していく久々知くんが振り向きがちに微笑む。
つい頷いてしまいそうになるのを振り払って、隣に追いつきながら駄目だと念を押した。
「…ちょっとだけ」
「だから駄目だってば…私二人乗りなんてやったことな……っ、くしゅん」
海から吹いてくる風の冷たさからか、くしゃみが出る。
すぐにふわりと抱きしめられて、二度目のくしゃみは出てくる寸前でひっこんでしまった。
「やっぱり少し寒いな」
「……あったかいよ」
「――うん」
私の肩を抱く手に力が込められる。
久々知くんの囁くような相槌が甘く聞こえて耳がくすぐったい。
ドキドキが大きくなって、体温も上がったような気がした。
「どうして海に来ようと思ったの?」
「…………なんとなく?」
疑問系で返されて思わず見上げれば、久々知くんの顔が真っ赤だった。
不思議そうな顔を返されて、そのことを指摘すると久々知くんの視線が動く。眇められる両目と片手で目元に影を作る動作につられて海の方へ目をやった。夕陽で海が赤い。
「綺麗だね」
「ああ」
「あ。久々知くん、向こうに船が――」
優しい口づけで言葉の先を摘み取られ、抗議代わりに制服を引っ張る。
小さく笑う久々知くんが私の頬に口づけて赤いとからかうから、夕陽のせいだと返しておいた。
「――そろそろ帰るか。だいぶ冷えちゃってるし」
頷こうとしたタイミングで唇に触れられて身体が震える。
戸惑いながら久々知くんを見上げたら、妙に真剣な顔をされた。
「潮風のせいで塩辛いのも残念だしな」
「な…!」
絶句してしまった私に同意を求めてくるのはやめてほしい。
反射的に自分の唇を舐めて確かめてしまい、恥ずかしさで顔から火が出そうだった。
自転車二人乗り
豆腐部屋
1054文字 / 2013.04.17up
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