食堂を経由してくの一教室の入り口へ行ってみれば、ほどなくしてふらふらした足取りで彼女が姿を見せた。
目を擦って頭を振って両手をぐっと握りしめる。目を覚ますための名前なりの儀式だろうか。
やっぱり見ていて飽きないなと漏れそうになる笑いをこらえて声をかけたら、案の定…いや、想像以上に驚く彼女が見られた。
きょとんとした顔をして、何度も素早く瞬きを繰り返す。
信じられないと言いたげに「本当に?」と呟くから、触って確かめたらいいんじゃないかと(言葉にはしなかったが)手を差し出してみた。
吸い寄せられるようにそっと乗せられる手のひらは温かい。
衝動に任せて握ると名前はぴくりと震えてまた瞬きを繰り返す。可愛いなと思いながら迎えに来たことを伝えてみれば、はにかみながらお礼を言われた。
二言三言、言葉を交わしているとじっと見上げてくるから、問い返すつもりで見つめ返したのに、名前は照れくさそうに視線を外す。
忘れようとしていた期待がまた膨らむのを止められない。これで予想を外していたら――俺の方から誘ってみようか…そんなことを考えているとぎゅっと手を握られて驚いた。
横目で様子を伺えばなぜか悔しそうな顔をしていて、さらに力が込められる。
ドキリと心臓の音が強くなり、自分の手の中に納まっている彼女の手のひらを意識した。
「名前の手は小さいな」
「そんなことな…ひゃ!?」
指も細いし、それにすべすべしていると思う。
何の気なしに親指を使って確認したら、びくっと名前が跳ねた。
「そ、そうやって撫でるの駄目!!」
かあっと頬を赤くして恥ずかしそうに抗議してくるのが無性に可愛くて、それを見られるのが嬉しい。
「…どうして?」
聞き返すと一瞬怯んだように言葉を詰まらせながら、羞恥に震える声で「どうしても」と呟いた。
生物委員会(25.5)
豆腐部屋
788文字 / 2013.03.14up
edit_square