カラクリピエロ

久々知くんの恋人(6)


――みんなすごい顔してるなあ。

固まっている四人を見て、まるで他人事のように思う。
ちょっと面白いな、なんて感じる余裕があるのは、こうして私を守ってくれる手があるからだ。

きゅ、と胸の辺りが締まる感覚と、ちょっとずつ早くなる鼓動。
やっぱり私はこの人のことが大好きだと再確認して、身体を覆う布を引き寄せた私はそこに顔を埋めた。

この気持ちをどうやったら上手く伝えられるだろう。



◆◆◆



「雷蔵、名前がびっくりしてるだろ」
「び…びっくりしてるのはこっちだ!兵助、おま…、な、なんだこれは!」
「これって言うな」

名前を指差す三郎にムッとして返すと、今度は勘右衛門が俺を押しのけて(一応俺は食事中なんだが)手元の名前を覗き込む。

「兵助、これちょっと貸して」
名前だ」
「うん、ごめん。このちっちゃい名前貸して?」
「駄目」
「じゃあ触らないからさ、もうちょっと近くで見せて」
「駄目」

勘右衛門を押し返しながらの問答に、名前は“それくらいならいいんじゃないか”と言いたげな顔をしていたが、俺はそれを見ないフリでやり過ごした。

目の前で額を寄せ合う友人たちは内緒話とも言えないやりとりを繰り広げている。

「……やばいよこれ重症だって」
「だよな…薬は意味ねぇ類か?」
「幻覚じゃなかったもんね。あれって兵助が作ったのかな、よく出来てたけど」
「雷蔵、そんなほのぼのしたもんじゃない。滑らかに動いて喋るなんて、あれはもはや気持ち悪いレベルの出来だ」
「おい、聞こえてるぞ。というか人形じゃ――」
「なぁ兵助…いくらフラれたからって人形を代わりにって虚しいだけだろ……元気出せ、な!」

そう言いながら八左ヱ門が俺の背中を思い切り叩くから、言葉途中だったのに軽く咽てしまった。
フラれた云々は三郎の仮説で肯定した覚えはないのに、なんで確定ってことになってるんだ。

「ちょっと竹谷!久々知くんに乱暴しないで!」
「うおっ、怒られた!?」

ビクッと肩を震わせて僅かに身体を引いた八の隙間から、食堂内を見渡す。
さすがに騒ぎすぎだと思ったが、人も少ないせいか、それとも俺たちが騒ぐのは日常的なものと捉えられているのか。特に興味をもたれることなく素通りされているようだった。

「く、久々知くん」
「ん?」
「あの…撫でるの、やめて…ください…」
「ああ、ごめん」

いつのまにか空いていた手で名前の頭から背中にかけてを撫で続けていたらしい。
真っ赤になった名前が縮こまっているのが可愛くて、みんなの目から隠すように自分の胸元に引き寄せてしまった。

「……継ぎ目はないし、精巧すぎるし…自立歩行な上に自立思考型?兵助、こんな技術どこで身につけてきたの。っていうか無理だよね」
「うん。人形じゃないからな」

視線を俺の手元に固定したまま、呟くように勘右衛門が口にする。
俺の答えを聞いてもあまり変わらない表情に、信じるか否かの葛藤を感じた。

受け入れがたい気持ちもわかる。
俺だって最初に見たときはそうだったし、相手が名前じゃなかったら信じきれなかったかもしれない。

「…とりあえず、俺フラれてないから」
「そこはもうどうでもいいよ!」

ペシ、と片手でテーブルを叩いて、そのまま「え~…」と盛らして顔を覆う勘右衛門。それと無言のままの『ろ組』の三人。

いざとなったら俺だけで解決策を探すことになるかな、とぼんやり考えながら、だいぶ湯気が減ってしまった膳へ焦点を合わせた。

名前、ごめん。ご飯冷めかけてるけどいいか?」
「久々知くん、食堂のおばちゃんのご飯は冷めても美味しいんだよ」
「…………そうだな」

知らないの?と何故か自慢げに笑う名前に笑い返して、もう一度彼女をテーブルに降ろした。

「……ねえ名前
「ん?」

おばちゃんに借りた匙の上に米のほか食べられそうな物を乗せていると、復活したらしい勘右衛門がテーブルに伏せるようにして名前に話しかけた。

「兵助が知らなくておれが知ってることって何かない?」
「…どうかな…あったっけ?」
「そうだよね、名前は大抵兵助にべったりだもんね」
「べ、べったりって!してないよ!」
「そっか、兵助が名前にべったりしてるんだった…っていうか、たまにはしてあげたら?」
「う……」

ごく普通に、いつものように会話を進める勘右衛門は、既に現状を受け入れている気がする。
とは思ったものの、勘右衛門の振った話題は俺にとっても大歓迎だったから、名前に助け舟を出すのを先送りにしてしまった。

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