カラクリピエロ

火薬委員会(16)



火薬委員会への参加二日目。
昨日言ってた雨漏り点検に加えて、棚の応急処置もしようという話になり、斉藤さんを始めとした三人は材料と用具を取りに行った。

「はい、久々知くん。私は何を――」
名前は見学」

一刀両断。
久々知くんは先生に質問するように挙手した私の台詞を思い切りぶった切った。
思わず固まる私は勘右衛門の『きっと反対する』という言葉を思い出す余裕もない。

「…って言うつもりだったけど、俺の助手でもしてもらおうかな」

仕方ないと言いそうな、笑顔と少し困った表情が混ざった顔で首を傾げる久々知くんに何度も瞬きを繰り返す。

「活動できないように医務室に預けるとか、勘右衛門に見張らせるとか…考えたけど、俺も名前が心配だし傍で見守ってる方が安心だから」
「……そ、それって」
「善法寺先輩の言う通りだったのはちょっと癪だけどさ。屋根まで上がるからじっとしてて」

私が久々知くんの傍にいたいって思うみたいに、久々知くんもそう思ってくれてると自惚れてもいいんだろうか。
火照る頬を中心に熱くなってきた顔に、手のひらで風を送る。

久々知くんの傍にいて心が安らぐと感じられるようになるには、どれくらい時間がかかるんだろう。

そんなことを考えていたから、突然腕をとられて背負われたことにびっくりして久々知くんの装束を思い切り掴んでしまった。

「な、なんで…?」
「屋根まで登るって言ったろ」
「言ったっけ?え、でも、私、自分で」
「無理だと思う。背中に怪我って結構不便だよな」

――即答はちょっと酷い。
せめて挑戦くらい、と思う間に久々知くんは梯子を登り始めていた。
これは仕事をするために仕方ないことで、不可抗力で…と早速ヒートアップし始めた心臓を宥める。

「重い?重いよね?」
「…前にも思ったけど、なんでそんなこと気にするんだ?」

なんでとか。普通、聞くかなそれ。
重いと思われたくないからに決まってるでしょう、それが好きな人相手なら尚更。

「…気にするよ…」

頭では色々考えながら、うまく説明できなくてそれだけを口にする。
女心をちっともわかってもらえないのが無性に悔しい。
久々知くんは男の子なんだから、わからなくて当然なのに。

「っ、名前、」
「え?」
「いや、あの、少し苦しいというか、嬉しいけど、今は…ちょっと、困る」
「ご、ごめん!」

気づかないうちに久々知くんの首を絞めてしまっていたらしい。
慌てて腕を緩めて、落ちない程度に掴みなおした。

好きな人の首絞めとか…今度立花先輩辺りに女らしさについて講義でも受けたほうがいいんだろうか。

(いやいや立花先輩っておかしいでしょ)

ここはせめてくのたまの先輩をあげるべきところだ。
知れず小さく溜息をつくと同時に、私たちは屋根の上に到着した。

「…久々知くん?や、やっぱり重かった?」

私を降ろしたあと無言で座り込んだ久々知くんに声をかけると、彼はびくりと震えて私から少し離れた。

「…………私、なにかしたかな」
「いや!これは、違うから!名前は全然悪くない!」

「男の子の事情ってやつだよ名前

「「勘右衛門!」」

声に振り返った私と久々知くんの声が重なる。
よっ、と掛け声つきで屋根に上り、私の隣にきた勘右衛門をついまじまじと見てしまった。
見張りのときは気配消しとくって前に言ってなかったっけ。

「そうなんだけどさ、見てられなくて」
「勘右衛門、ちょっとこっちこい」
「いいのかなーそういう言い方して。おれは兵助のためにこうして出て来たのに」
「頼んでない」
「あは、そうだね。名前、ちょっと耳」
「俺が悪かった!頼むからこっち!」

はいはい、と楽しそうに返事をしてしゃがみ込む二人は、私を焦らしてるとしか思えない。
目の前で内緒話なんて、気にするなと言うほうが無理。

私は足音を忍ばせて、そっと二人に近づいた。

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