カラクリピエロ

学級委員長委員会(4)



――結論から言えば、おつかいは無事終了した。

私の手には桜色で可愛らしい大小二羽の鳥(和菓子)が収められた箱がある。
正直学園長先生に渡すよりも自分で食べたい、むしろ食べるのもったいない等々現物を目にした私は思っていたのだけれど、品を受け取る時点で私は“らしく”振舞うことを忘れた。

名前、私に何か言うことは」
「非常に今更ですが恋仲の振りってすっごくキツイです」
「違うだろ」

「まことにもうしわけありませんでした三郎くんのおかげで助かりましたありがとうございます」

「よし」

満足げに頷いた三郎を横目に、私はひとつ溜息をついた。
このこと、正直に報告しないと駄目だろうか。

+++

今日は来客が多く、昼前には在庫が切れてしまったらしい(ゆえに私の寄り道が原因じゃない)。だから本当は店を訪れた時点でおつかいは失敗のはずだった。
でもそれを聞いた私をじっと見た店のご主人がわざわざ作ってくれることに――本当に感謝しきりだ。

ついでに作法委員会と、くのたまの友人へのお土産を購入。五年の皆にも買っていこうか?と三郎に聞いたところ、三郎も勘右衛門から矢羽根を飛ばされたらしい。この中では何が好きなんだ?といくつか候補を挙げて私に聞いてきた(私の希望を聞いた理由はわからない)。

完成するまで奥さんからの質問責めに合ったものの(ご夫妻で経営しているそうだ)、それは三郎が話を作ってくれたおかげもあってなんとか流せたと思う。

できあがった二羽の鳥に見惚れる私に「オシドリなんですよ」と奥さんが優しく笑った。

「すごく可愛いです!」
「どうもありがとう。…………お二人もいずれはオシドリ夫婦になれそうですねえ」
「――は?」
「息ぴったりですものね」

にこにこ笑う奥さんと固まる私。
次の瞬間には素に戻って「ないです!」と思い切り叫んでいた。

「さ、三郎と、めおとって有りえ無――もが」
「ははは、すみません、こいつ照れ屋で」
「あらあら」

微笑ましいわね、と笑う奥さんに返す三郎の愛想笑いが怖い。

(っていうか苦しい!!)

じたばたもがくと、ちゃんと合わせろと視線を寄越されて私は微かに頷いた。
解放されたはいいけれど酸欠と興奮とで苦しい。顔に手をやれば熱を持っていた。
どうやら奥さんはそれを“照れ”と受けとってくれたようだ。違うんだけど。

+++

――そんなわけで、達成したはいいけどこれをそのまま報告したらシナ先生からの呼び出し&説教コース確実な気がする……加算してもらう予定の点数が全部吹っ飛びそうだ。かといってでっち上げを書いてシナ先生を騙しきる自信もない。

「はあ…」
苗字先輩、どうしたんですか」
「庄左ヱ門……ちょっと手繋いでくれる?」
「は?」
「彦四郎も」
「え?」

帰り道の途中で合流した一年生二人の間で自分の要求だけを告げると、疑問符をいっぱい浮かべた顔が二人から返ってきた。当然だよね。

「私ね、今すっごく癒しが欲しいの。いつもは伝七と兵太夫にお願いしてるんだけど居ないので、学級委員長として代理してください」
名前、その言い方ずるいなー」

唐突に割り込んできた勘右衛門を無視して自分の両手を一年生に差し出す。
二人は少し躊躇ってから、私と手を繋いでくれた。

「優しいなあ…」
「ふふん、私の後輩だからな」
「いろんな意味で見本になってるんだろうね三郎は……」
名前、それはどういう意味だ」
「いい先輩だねーってこと」

三郎はまだ何か言いたそうにしていたけれど、両側にいる一年生が揃って「はい!」と大きく頷いたからか、開きかけた口はそのまま閉じられた。
ついでに勘右衛門は?と聞いたらこれにも「良い先輩です!」と嬉しそうなお返事が返ってきて、勘右衛門が目に見えて(珍しい)照れていた。

「やばいおれ今すごい嬉しいんだけど。手使えないのもどかし過ぎる!名前ちょっと代わって!」
「学園着いたらね」
「これ名前のなのに!」
「うん、ありがとう」
「あーもー……どういたしまして!あとでお礼してよね」

前を歩く勘右衛門と三郎は私の荷物を分担して運んでくれている。
そっちのが軽くない?いやそれのほうが等言い合いを始めた二人を見ながら、両脇から聞こえてきた歌に耳を傾けた。

+++

学園長先生の庵へ寄ってサインをもらって(ついでに二羽いた甘味の片方をもらえた。学園長先生万歳)くのたまの制服に着替え、報告をまとめる。
――結局減点覚悟でそのままの内容を書いた。やっぱり報告は正確であるべきだし…ということにしておこう。

委員会の時間は終わっていたから、立花先輩への提出は後回しにして夕食をとることにした。

戸口から中を覗くと、五年色の忍装束が固まっているのが見えた。
私に気づいた竹谷が手を上げて自分の隣を指す。
五人の席順に決まりは無いのか、指定される席は毎回違う。まあ一緒に食事(と話)ができればそれでいいからどこでも構わないんだけど。

食堂のおばちゃんから定食をもらって竹谷の隣に座る。今日は正面が不破くんだ。

「三郎と勘右衛門のところ行ったんだよね、どうだった?」
「……つかれた」
「そんなに?」

思わずしみじみと呟いた言葉に、不破くんは「お疲れ様」といいながら腕を伸ばして私の頭を軽く撫でた。
労ってもらえるのは嬉しいんだけど少し恥ずかしい。

「何してきたんだ?」
「空き教室で勘右衛門とお茶飲んで、」
「その後三郎と町デート」

問いかけてきた竹谷への返答にするっと滑り込んできた勘右衛門の言葉に、持ち上げかけていたお茶碗を落とした。ガチャ、と食器の触れ合う音にヒヤッとしたけど割れたり欠けたりはしていないようだ。よかった。

「あれはデートじゃないから。三郎もなんか言ってよ」
名前に振り回されまくった可哀想な私の話でよければしてやれる」
「そんなことしてません」
「ほー。当初の目的そっちのけであっちへフラフラこっちへフラフラ、品物選びに付き合わされ荷物を持たされ、」
「それは三郎が自分からやってくれたことじゃん」
「既に言ったと思うが、そういう役割だったからだ。もう二度とやりたくない」
「三郎の彼女になる人はきっと幸せだろうとか一瞬でも思った自分が憎い!」
「はっ、名前は単純すぎるな。その辺のろくでもない男にひっかからないように気をつけろよ」
「ご忠告ありがとうございます、でも私人を見る目はあると自負してますから」

「――お前ら俺挟んで喧嘩すんな!!」

竹谷が箸を持ったままテーブルを叩いた。
本当にごめんなさい。
すぐ言い返したくなる性格見直したほうがいいんだろうか。直る気全然しないけど。

気分を落ち着けたくて湯飲みを手に取る。急須に手を伸ばそうとしたところで、先に不破くんがそれをとった。

「ふふ、随分仲良くなったんだね」
「…不破くん、今のそう見えるの?一緒に新野先生のところ行く?」
「あれ、三郎のせいで僕にも棘が飛んできた」

何故か嬉しそうに笑って、不破くんは急須を傾けた。
飲みやすい温度になっているのが湯飲み越しにわかる。ありがとう、とお礼を言って一気にお茶を飲み干した。

「――でも、そんなに何を買ってきたんだ?三郎が参るってよっぽどだろ」
「髪紐、帯紐、紅、白粉、かんざしに饅頭、飴、団子、鏡…あとなんだ?」
「なにその記憶力……」

久々知くんの疑問に、三郎は指折り数えながら品を羅列していく。
道中を思い出しているのか、声音が段々うんざりしてきている。三郎は「結構重かったよね」とケロッと言い放つ勘右衛門を見習ってもいいと思う。

「で、一つ買うのに四半刻とか普通だからな」
「……女子ってすごいな」
「…………兵助、お前がそれ言うか」
「なんで」
「なんでときたか。豆腐屋前で一刻待ち」
「え?有意義な時間だったろそれは」
「そんなこと思ってるのはお前だけだ!」

三郎が一息に言い切ると、竹谷と勘右衛門が「確かにな」と頷いて不破くんは眉を下げて苦笑した。言葉にはしないけど同意ってことかな。
一緒におでかけとか、それだけで羨ましすぎるんですけど。

――つい昼間の想像話を思い出してしまった。

三郎の件で他の人からそう見える場合もあるってことわかったし……つまり、一緒に町を歩いてみたい。

「あ、あの、久々知くん」
「ん?どうした名前
「私、行きたいです。お豆腐屋さん、久々知くんと!」
「…なんで微妙にカタコトなんだよ」

ボソッと聞こえた竹谷のツッコミは無視。
一拍おいて、久々知くんはにこっと笑顔で「いつがいい?」と言ってくれた。

名前がよければ今度…って言っても少し先だな。新作の試食会があるんだけど、その日でもいいか?」
「い、いいの?」
「うん。って俺が答えるの変だろ」
「……!」

久々知くんの笑顔は一種の兵器だと思います。

「絶対、絶対、空けとく!」
「わかった。一緒に行こうな」

久々知くんの心をひきつける魅力を是非とも伝授してもらいたいと常々思っていたけど、美味しいだけじゃないなんて、お豆腐最高!お豆腐万歳!

やる気でた。
ツアーはまだ始まったばかりだけど、それを糧にガッツで乗り切ってやります!

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