カラクリピエロ

序(4)



名前、こちらへ」
「なんでしょ、う、か!?ええ!?」

立花先輩が声をかけてきたと思ったら、ぐい、と腕を引かれてそのまま肩を押えられた。
目の前には委員長ズが勢ぞろい。
目を白黒させる私をよそに、立花先輩は両肩に手を添え軽く押し出す。そのまま一歩を踏み出すと、

「では、皆に改めて紹介しておこう」

と高らかに言った。

「わざわざ紹介しなくても皆さん知ってますって!」
「何、気にするな」
「私が!私が気にするんです!」

「我が作法委員会所属のくのたま五年、苗字名前だ。くのたまにも関わらず騙し合いは苦手で表情に出やすい。女らしさ、色気は…まあ、そのうち開花するだろう、たぶん」

「…そこは絶対って言ってくださいよ」
「うるさい、お前は少し黙っていろ」

私のことなのに黙っていろとはどういうことですか。
立花先輩に抑えられているせいで動けないし、視線は刺さりっぱなしだし、その先輩の紹介は失礼すぎます!

「加えて多少ドジではあるが、明るく後輩の面倒見も良い。物怖じもしない上に口が無駄に達者なので、ややうるさい所もあるが…まあそこは可愛い部分だな」

――急に、褒めるのもやめてください。
そんなこと、私言ってもらったことないです。

立花先輩の言葉で顔に熱が集まる。治まれと思うと余計悪化するようで、私は刺さる視線から逃れる為に俯いた。

ほら、と背中を軽く叩かれる。
挨拶しろと?私の状態に気づいてるくせにやっぱり先輩は酷い。

「……その、慣れないせいでご迷惑をおかけするかもしれませんが、頑張りますので…よろしく、お願いします」

頭を下げる動作がぎこちなくなってしまったけれど、そこはご愛嬌ということで勘弁してもらいたい。

ばらばらに“よろしく”を返してもらったあと、解散となった。

七松先輩の壊したあれこれの修繕のために食満先輩の他六ろ、は組の計四人を残して学園長先生の庵から引き上げる。
途中で、立花先輩から予定の書かれた紙を渡された。

一番上に『一、学級委員長委員会』、一番下に『八、会計委員会』と書いてある間に線がたくさん――“あみだくじ”ですよねこれ。
やはり無理して全部の委員会を回らなくてもよかったのでは。

見づらくて苦戦していると、久々知くんが後ろにまとめてあるから、と教えてくれた。

苗字名前の委員会体験ツアー
一、学級委員長委員会
二、体育委員会
三、火薬委員会
四、生物委員会
五、保健委員会
六、用具委員会
七、図書委員会
八、会計委員会

期間はそれぞればらばら。委員会の字がずらりと並んでいるのを見ただけでもう既にくじけそう。

ああ、癒しが欲しい。
運がよければ伝七か兵太夫、藤内の誰かに会えるかもしれない。逃げずに愚痴を聞いてくれるなら喜八郎でもいい。

名前は作法委員会が好きなんだな」
「え!?」

予定の紙を前にどんよりしていた私の横に、ふわりと空気を揺らして久々知くんが来た。
顔を上げると思いのほか近くて、つい動揺してしまった。
前よりは落ち着いて話せるようになったけれど、不意打ちだとやっぱり緊張する。

「……どうして?」

問うと、久々知くんは思い出したようにクスリと笑った。

「立花先輩とやりとりしてるのが楽しそうだったから。名前、委員会ではあんな感じなんだろ?」
「…楽しそう…苦労してそう、じゃなくて?」
「それ含めてかな。立花先輩も…名前のこと大事にしてるって感じた」

そう、なんだろうか。
私は毎度振り回されっぱなしで立花先輩はとんでもないサディストだと思っていたけれど、久々知くんの目から見た立花先輩(私も?)は違うらしい。

名前は全部の委員会体験するなんて大変だろうけど……実は、ちょっと楽しみにしてるんだ」
「…………ほんと?私が、行くのが?」
「ん。俺も自慢の後輩紹介したくなった」

どこか嬉しそうに笑う久々知くんを見て、私まで嬉しくなる。
鉢屋と立花先輩に触発されたのかもしれないけど。私が行くの楽しみって、私に後輩を紹介したいって……そう言ってくれた。

確かに面倒だし気が重くはあるけど。
お助け鉢屋(この言い方ちょっと可愛いかもしれない)も一回なら使えるらしいし、こうなったら委員会全力制覇してやろう、と気合を入れた。

せめて足手まといにならないように頑張ろう!

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