カラクリピエロ

序(3)



円になって額をつき合わせている先輩方(六ろのお二人は何故かバレーボールを始めているけど)と同級生三人は私のツアー内容を決めてくれるらしい。
それまで私にはやることがないから、「ちょっと付き合え」と学園長先生が点ててくださったお茶を頂いているところだった。

抹茶は嫌いじゃないけど、甘いものも一緒に欲しいなぁ。

名前!」

唐突に、鋭く呼ばれて思わずびくりと震えてしまった。
立花先輩がこんなに声を荒げるなんて、しんべヱと喜三太が一緒にいるときくらいなのに。
ずかずかと、どこか普段の優美さを欠けた足取りで私の傍まで来て腰をおろす。

「どうしたんですか?」
「お前は作法委員だな?」
「…? そうですが、それが何か」
「他へ行く気は」
「ああ……それさっきシナ先生にも聞かれましたけど、移動する予定はありません」

作法が好きだから、というのはなんとなく恥ずかしくて言えなかった。
私の返事を聞いて立花先輩は「そうか」と呟き、いつもの笑みを浮かべる。

「それを聞いて安心した。お前は私のものだからな」
「…………誰がいつ立花先輩のものになりましたか」
「作法委員は全て私のものだ。決まっているだろう」
「そんな常識を語るように…っていうか紛らわしいので『作法委員』を省略して言うのやめてください」
「移動したいなどと言い出したときには多少強引な手を行使せざるを得なかった。…なあ?」

私の話も少しは聞いてください、と言うより先に、頬を撫でられて言葉に詰まった。
ズザッと一気に移動して立花先輩との距離を開ける。急に雰囲気を変えるのやめてほしい。

「仙蔵、そう脅すのはよくないよ」
「っ、善法寺、先輩」
「とりあえず仙蔵の望む答えは貰えたみたいだし、さっさと決めてしまおうか。期間は適当でいいのかな」
「会計委員には……そうだな、この期間に欲しい」
「なんだよ文次郎、その辺になんかあるのか?」
「人数が増えるんなら丁度いいからな。過去の決算のまとめをやる」

話が進みそうなのはいいとして、潮江先輩…物扱いやめてくれませんか。

しかも全力で行使する気満々なところが嫌だ。会計委員会って活動しながら地獄の特訓、しかも徹夜で倒れる人続出って噂だし、正直一番行きたくない。

かといって体育委員会も気が進まない。
ひたすら登って降りて穴掘って、の体力勝負っぽいし、人間離れした能力持ち(だと思っている)の七松先輩についていける気がしない。

「――貴様らに一つ言っておくが」
「何だ」
「くれぐれもうちの名前を壊してくれるなよ?」
「ちょ、その言い方!私は生首フィギュアじゃないんですけど!」
「当たり前だろうが。だから私が前もって忠告しているんだ。特に文次郎、小平太。お前らだ」

だからってそれはないと思う。
だけど身体が壊れるような心配をされる活動内容なのかというのも気になる。

立花先輩が順に指差した先が行くのを渋っていた二つにドンピシャなところがまた……

「ん?話合いは終わったのか?」

変わらず室内で中在家先輩とボールのやり取りをしていた七松先輩は、トスを上げられたボールを思い切りアタックで叩き出し、庵の障子と庭の獅子威しを破壊した。

呆然としたあと烈火のごとく怒り出した(当然だけど)学園長先生を食満先輩と善法寺先輩が懸命に宥めている。

それを全く気にせず、七松先輩は「わたしのところへ来るのはいつだ?」と首をかしげた。

「…………七松先輩って、すごくマイペース?」
「それで済ませるお前も大概だと思うが」
「まぁ喜八郎で慣れてるから……って鉢屋!」
「すまん。悪かったと思っている」
「態度がふてぶてしい」

腕を組んだまま言う鉢屋を横目で見てそう返すと、鉢屋は顔を伏せて頭を掻いた。

「私だってこうなると思ってなかったんだ。…………ごめん」

驚いた。
驚きすぎて、つい鉢屋を凝視してしまった。

「…言葉では足りないか?私を踏みたいと、そういうことだな?」
「はっ!?え!ちょっとやめて何しようとしてるの!」
「土下座をしてお前に許しを請えばいいんだろう」
「言ってない!!そんなこと一言も言ってないでしょ!?うわ、やめてってば!許す!許します!鉢屋は全然悪くないから!」

私の前で身を屈める鉢屋を慌てて止めた。土下座させて足蹴にするとかどこの女王様。
させたくないし、それをさせたと思われるのも絶対嫌!

必然的に鉢屋と視線を合わせるように膝をついた私が見たのは、ニヤリと歪んだ口元だった。

「…………鉢屋、三郎」
「久々だなそう呼ばれるのは」
「実は楽しんでたでしょ!?」
「否定はしない。…が、一度なら頼ってきても構わないぞ」
「え?」
「――二度は言わん」
「………聞こえた。………あり、がと。回数限定のお助け忍びってちょっとかっこいいかもね。慎重に使わせてもらうことにする」

「…………ば…だな」

「ん?ごめん、今のはよく聞こえなか」
「励めといったんだ。最初は当然学級委員長委員会だからな、精々羽を休めていくことだ」

――これは、遠まわしな応援か何か?
…やっぱりすこしくらいは申し訳ないなと思ってくれてたりするんだろうか。

鉢屋の顔を見て読み取ろうと思ったけれどあっさり逸らされてしまい、それは叶わなかった。

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