カラクリピエロ

序(閑話:立花)



――さて、なにやら妙なことになった。
学園長先生の思いつきは常に突拍子もないものだが、今回も多分に漏れず予想外だ。

大体名前の所属する作法委員会の委員長である私には事前連絡くらいあってもよさそうなものだが。

……名前名前だ。
あの口ぶりからして前もって予定を立てていたに違いないのに、私は全く何も聞いていない。
おかげで口も出せずに“ツアー”なんてよくわからないものが決定してしまったではないか。

「…い、おい仙蔵」
「うるさいぞ文次郎。私は今考え事の最中だ、見てわからんか」

いつの間にか車座になり、中心には白い紙が置かれている。そういえば学園長は訪問順を決めろとおっしゃっていたか。

話の中心であるはずの名前は輪に加わっておらず、口元に手をやったまま動かない。どうせどうでもいいことでも考え込んでいるんだろう。

学園長はのんきに茶を点てていらっしゃるし、生徒の主体性に任せるにも程がある。

「仙蔵、」
「…なんだ。くだらんことだったら新作の威力をお前で試す」
「ばっ、ふざけんな!苗字名前はお前んとこの委員だろうが!少しは話に加われ!」
「そうは言うがな。ならば、この“ツアー”とやらに作法を加えても意味がないんじゃないか?」
「あれ、てっきり名前が委員会を移動するんだと思ったんだけど違うの?他の委員会のよさを知ろう…みたいなさ」

伊作はけろりと言うが、名前は既に作法委員だ。
それに先ほど学園長先生が双方の交流を深めるためだと――――ふむ。

「鉢屋」
「…やはりきましたか」
「わかっているなら話は早いな。どういうことだ?」
「かくかくしかじかで、発端はお茶飲み程度で終わる話だったんですけど学園長先生に話したら妙に張り切って…で、こうなりました」
「それなら委員会移動はないな」

やはり学園長先生お得意の気まぐれだ。
名前はあちこち移動で多少苦労するだろうが、それが終われば特に変わることもない。しばらく一人分の席が空くくらいだ。

「さあ、わかりませんよ?名前の気が変わるかもしれませんし、山本シナ先生は“希望があれば理由次第で”とおっしゃっていました」

私の役割は名前不在の承認と、不在時にどの委員会にいるかの把握。その程度だろうと思った矢先、鉢屋はそしらぬ顔で告げた。

「なに、やっぱり移動の可能性もありってこと?」
「何故伊作はそんなに乗り気なんだ!」
「保健委員は人数多い方が助かるし。くのたまなら同学年の忍たまより薬草関係にも詳しいでしょ?」

身を乗り出した伊作に便乗したのか、今度は文次郎が「人員確保…」と呟くのを聞いた。
他の委員長(代理の五年も含め)がどう思っているのかわからんが、名前は作法委員だ。
作法委員会は後輩含め全て私のもの。他にはやらん。

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