カラクリピエロ

思わぬ反撃(中編)


「何で二人までいるの!?」
「面白そうだから」
「右に同じ。つーか部屋提供者にそれはなくね?」

久々知くんを伴って現れた不破くんは、竹谷と尾浜くんも一緒に連れてきた。
縁側でやりましょうと言い張る私の主張はあっさり無視されて、現在竹谷の部屋に押し込まれている。
不破・鉢屋両名の部屋を会場にすると無駄に大掛かりになっているのは何故なのか。

「三郎めっちゃ楽しそうだったね」
「最近おとなしくしてた反動じゃねぇかな」

二人の会話を聞きつつ、隅っこで正座をしながら部屋を見渡した。
竹谷のことだから乱雑なのかと思いきや、案外綺麗だ。虫取り網が常備されてるあたりさすが生物委員だなと思う。

苗字さん、お待たせ。準備できたよ」

不破くんの呼びかけをきっかけに、私たちはぞろぞろと竹谷の部屋を出た。

竹谷と尾浜くんは完全に見物人感覚で楽しそうにしている。
衝動的にどつきたい気分になったけれど懸命に耐えた。

+++

お邪魔します、と入った部屋には覆面をした久々知くんが二人。
空間の真ん中で正座をしてこっちを見ていた。

「……なんで覆面?」
「しゃべったら兵助の発言でばれちゃうからって」

二人の久々知くんはまつ毛の長さも髪の質やフワフワ具合も時々きょろきょろ動く視線も全く同じだった。こうして見ると鉢屋の変装技術の凄さを改めて実感してしまう。

(それにしても…………)

苗字さん、ちゃんと見ないと」
「だ、だって不破くん!久々知くんが二人だよ!?」
「え、うん、そうだね…?」

前に遭遇したときはそれどころじゃなかったから深く考えなかったけど、これはものすごく贅沢な気がする!

困惑する不破くんに、この気持ちはわかってもらえないらしい。
しばし立ったままこの光景を眺めていたけれど、私のために連れ出されてしまった久々知くんをそのままにするわけにもいかない。

何度か深呼吸をして、二人の久々知くんとそれぞれ対面した。

久々知くんの正面に座って目を合わせる。
見つめているうちに自分の顔が熱くなっていくのがわかって、前のめりに崩れながら意味もなく「参りました」と言っていた。
「……こっち、です」

「おお、当たった」
「…どんだけ照れてんだよ名前は。見てる方が恥ずかしいっつの」

「よし、これで観察期間は終わりだな!」
「え、そういう約束だったのか?」

立ち上がりくるんと回転した久々知くんは不破くんの変装をした鉢屋に戻り、覆面を外しながら私に手を差し伸べてくれる久々知くんは驚いたような声を上げた。

「ごめん苗字。俺知らなかったんだけど…来ないほうがよかったかな」

胸がいっぱいで声が出せなかったので、代わりに思い切り首を振って返す。
あんなに長い間見つめるのが初めてだった上に、久々知くんも全然逸らさないから余計目力にやられたに違いない。

差し出された手に躊躇ったものの、掴まらせてもらった。私の手、震えてないといいけど。

身体を起こして胸を押さえる私に、鉢屋は至極楽しそうな笑顔を寄越した。

「――ま、見分けられても声が聞き分けられないんじゃ意味がないと思うがな」
「っ、鉢………、それ、は…」

なにを言いだすつもりなのか。
ギクリとした私は鉢屋の話を遮ろうとしたけれど、うまく回らない口がそれをさせてくれない。

「私はお前の言う通り悪戯好きだぞ苗字――――だから、それに引っ掛かってくれる人材も大好きだ」

言うと、鉢屋はいきなり私の肩をがしりと掴んで耳元に顔を寄せた。

「『正解おめでとう、そしてありがとう名前――これからも俺を楽しませてくれるよな?』」

――久々知くんの、声、で。

「な…………!!」

カァ、と一気に顔が熱くなる。
口をパクパクさせるも単語にすらなっていない音を発しながら、離れて行く鉢屋を見た。

そのニヤリ笑いを目にした私は――

「こ……殺す!鉢屋三郎!おとなしく私に殺されて!あんたを殺して私も死ぬ!!」
「うわあ、落ち着け苗字!危ないって!」

手元を離れて飛んで行く苦無はケラケラ笑う鉢屋にあっさり交わされ、私は久々知くんの制止行動であっという間に腰を抜かしてしまった。

――後ろから抱き締めるなんて卑怯です。

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