カラクリピエロ

【閑話】五年生の矢羽根


※鉢屋視点





『――三郎、なに考えてるの?』

私たちは親しくなったじゃないかと苗字の腕を掴みながら告げる私に、最初に矢羽根を飛ばしてきたのは雷蔵だった。
矢羽根なのは私が苗字を前に素直に答えるわけがないと踏んでのことだろう。

『もちろん仲良くするつもりだ』
『…………悪戯でしょ』
『三郎、名前は別に悪い奴じゃねぇぞ?くのたまにしちゃ優しい……と、思うし』

箸を止めっぱなしの八左ヱ門が加わる。
断言できない辺り、弱いと思わないか。

固まっていた苗字は、何を思ったのか唐突に私に熱があると断定して薬を寄越してきた。

『ほらな?』

八左ヱ門が自慢げになる理由がわからん。
そもそも本当に解熱剤か?
というか私を問答無用で病人扱いしてくるのはどうなんだ。

『それは仕方ないと思うよ。僕だって熱あると思ったし』

食事をしながら飛んできた雷蔵の意見は聞かなかったことにする。
苗字が寄越したそれは粉末になっていて、見た目では本物かどうかよくわからなかった。
けれど興味はあったので一応もらっておく。
飲めと突っ掛ってくる苗字に言葉を返したところで兵助と勘右衛門が膳を持ってきた。

私と苗字とを交互に見た兵助は、一言短く『聞こえてた』と矢羽根を寄越し、唐突に苗字に席を代わるよう提案した。

『三郎が苗字さんに悪戯するってやつね』

勘右衛門が補足しながら、どこか上機嫌で席に着く。
――便利ではあるが、矢羽根も良し悪しだな。

『そういえばさぁ…女の子の二の腕って胸の柔らかさっていうよね。三郎、どうだった?』
『勘右衛門!いきなり何聞いてるのさ』
『え、だから胸の』
『そうじゃなくて!いまお昼でしょ!食べなよご飯』

勘右衛門は兵助と言葉を交わしている苗字を見てシレッと矢羽根を飛ばしてきた。
途中で雷蔵が箸を握り締めて割り込んでくる…声に出さないのが不思議なくらいの勢いだ。それと八は苗字を見すぎだ。

『――掴んだだけではよくわからなかった』
『三郎も答えなくていいから!』
『兵助、聞こえてんだろ、このむっつり!お前ならいける。ちょっと触』

私の隣に座った兵助は、八の矢羽根の途中で思い切り蹴りを入れていた。
全く同時に苗字が「内緒話中?」と口にしたから、つい噴出しそうになって視線を逸らした。

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