カラクリピエロ

母は一枚上手です



――山本シナ先生、こういう場合はどう切り抜けたらいいですか。

急な実家からの呼び出し。
家が忍術学園から近いせいもあり、特に断る理由もなく帰ってきてみれば唐突に“見合い”へ赴く準備をさせられた。

呆然とする私を他所に、家で待機していた髪結い師に髪を整えられ、新しく仕立てたという綺麗な着物を着付けられ、さあ行きましょうという段階になってようやく我に返る。

「か、母さん、これはどういうことですか!?」
「お前ももう14なのだから不思議はないでしょう」
「それは…そうかもしれませんが唐突すぎます!それに、私見合いなんて嫌です!」
「決めた相手がいるの?」
「い、います!!」

咄嗟に口をついて出た言葉にすぐ後悔した。
だって、こんなことを言ったら母から返ってくる内容なんて決まっている。

「なら連れてきなさい」

――ああ、やっぱり。
シナ先生、助けてください!
何度目かわからない先生への念を飛ばしながら下唇を軽く噛む。
くのたまや忍たま相手ならもっと上手いかわし方ができたかもしれないのに、母を前にするとどうにもそれが難しい。

「すぐには…無理です」
「……お前の一方通行なわけね?」
「…………は、はい」

気になっている人は、いる。
姿を見たり、声を聞けたらその日はなんとなく上機嫌でいられるような人。
――それなりに長い期間想い続けているけど、相手とはまともに話したこと数回で、下手したら彼は私の名前すら知らないかもしれない。

「――やめておしまいなさい」
「え?」
「見ているだけで満足する程度の想いならやめてしまっても構わないでしょう?」

読心術でも使ったんだろうか。
そんなことを思いながら母を見たけれど、私に母の考えは読めなかった。

「どうせ片想いで終わるくらいなら今見合いをしても同じです」
「お、同じじゃありませんよ!」

まずい。この調子では婚姻まで強引に進められそうだ。
母の言う通り、見ているだけの現状で満足していたけれど、こうなっては話が別だ。
彼とはなんの接点もないまま学園中退、このささやかな感情もあっという間に思い出として語られるようになってしまう。

「見知らぬ相手と添い遂げるくらいなら、先に当たって砕けます!」
「…………そうですか」
「…母さん?」
「では、母はお前が砕けて諦めるまで待ちましょう」

にっこりと綺麗に笑う母をみて、私はまんまと母の思い通りの言葉を引き出されたのだと気づいた。
…それにしても砕けること前提なのはどういうことか。
下手につっこむと“待つ”という条件を撤回されそうで怖い。

「――ですが、今日の見合いはなんとしても行ってもらいますからね」

急に断ることなど出来ません、と言われながら腕を引かれて向かった見合いの場。
私は終始上の空だった。
まずは“私”を認識してもらう必要があるけれど、どうやって相手に近づこう、仲を深めるにはどうしたら…考えることが多すぎる。

話しかけてくる見合い相手には悪いと思ったものの、話の内容をろくに聞かないまま全て笑顔でかわした。こんなときシナ先生の授業ってすごいと実感する。
手を握られたとき、うっかり相手の腕をねじりあげたことが原因で(だって急に触られたから思わず)どうやらこの話は無事お流れになるらしい。

名前、待つとは言いましたがお前が相手を連れてこない限り定期的に見合いを組みますからね」

上手くすればずるずる卒業まで引っ張れると思ってたのに、やはり母は甘くない。
言外に早く砕けておいでと言われている気がして顔が引きつった。

(が、頑張ろう…!)

大きな溜息を吐き出して、私は学園への帰途を辿った。

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