カラクリピエロ

心のままに


※七松視点





名前!」

目の前に大好きな“飼い主”の背中を認め、思い切り飛びつく。
名前は短く悲鳴をあげて前のめりに崩れかけたから、急いで抱き上げてくるりと回った。
一緒に回転した名前をトン、と降ろす。それから改めて抱き締めると、固まっていた名前がゆっくり顔をあげた。

「な、な、な…」
「な?」
「なんで、ここに!?」

信じられないという表情で、震える指でわたしを指差す名前にニッと笑う。

わたしがここ――くの一教室の敷地に来る理由なんて、一つしかないじゃないか。

「わたしはお前の犬だからな!」
「ぎゃ!なななにを言い出すんですかいきなり!!」

名前はぎょっと目を見開いて、わたしの装束を掴みながら、忙しなくあたりを見回す。
何かいるのかと気配を探ってみたけれど、わたしと名前以外はくのたまが数人いるだけだ。

「間違ってないだろ」
「言い方ってものがあるじゃないですか!」
「そんなことより、わたしに付き合え。体育委員に自慢しに行きたい!」
「…………は?」

聞こえなかったのか。名前は案外耳が悪いんだな。
見上げてくる名前の両肩に手をついて、もう一度繰り返す。

「わたしのものになったと体育委員に自慢したいから付き合え」
「いやです」
「なんでだ!?」
「私、七松先輩のものになった覚えありません」
名前は冗談が上手いな!」
「いやいや冗談じゃないですよ!?」

華奢な腕でわたしを押し、距離をとろうとするのを自分の腕で閉じ込める。
眉を潜めて首を傾げることで疑問を表す名前を、勝手に緩む表情で見返した。

「七松先輩?」
「冗談じゃなく、お前はわたしのものだ。諦めろ」

絶句して口をぱくぱくさせる名前が喉元から段々赤く染まっていく。
体温も上昇していることを感じながら、細い身体を抱き締めた。

「…に、を」
「ん?」
「なに、するんですか、なに言ってるんですか、離してください、ここ、どこだと…!!」

赤い顔で捲くし立てる名前を見て、混乱しているのかと思う。
きょろきょろしながら身体全体でわたしを押すから、なんとなく腰に腕を回してみた。

「に、逃げてください!逃げます!逃げましょう!連れてってください!」

――なんだろう。嬉しくて、顔が緩む。

すがり付いてくる名前にまかせろと返し、そのまま担ぎ上げて忍たまの長屋まで移動した。

+++

「阿呆め」
「……言わないでください……」
「仙蔵、名前をいじめるのはやめろ」
「お前もだ馬鹿者」
「なんだと!?」

顔を覆って項垂れる名前の元に、なぜか現れた仙蔵が呆れながら辛辣な言葉を吐く。
何が悪かったんだと返せば、軽く鼻で笑われた。
自分で考えろといわれても、ただ名前を迎えに行ってそのまま連れ出しただけで非なんてない。

「み、みんなに見られ、しかも、あんな、あああああ恥ずかしい…!」
「いやぁ、見たかったなあ。愛の逃避行」
「善法寺先輩!!」
「あれ、伊作。いつ来た?」
「酷いな!さっきから居たよ!お前が名前を振り回してるから、怪我でもしていたらどうしようって仙蔵がうるさくて――」
「伊作、嘘はよくないな」

にっこーって感じの笑顔で、仙蔵が伊作の台詞を切る。
伊作は名前に向かって微笑んだあと「でも大体あってるよね」と言いながら仙蔵の方を向いた。

「そんなことはどうでもいい!せっかく戻ってきたんだ、今から行こう」
「いやです」
「まったく…強情だな名前は」
「私が悪いみたいに言わないでください!」

無理やり連れて行くことだって出来るところを、こうして待っているのに。

「七松先輩が…私の言うこと、ちゃんと聞いてくれるようになったら、行きます」
「じゃあ問題ないな!」
「どの口が言いますか!」

バンバンと畳を叩いた名前が溜息を吐き出す。
軽く曲げた指を口元に添えた名前はこっちを向いて、両膝に手をついた。

「……いきなり抱きつかないって約束できますか?」
「それは無理だ」

笑って答えたら、名前はこめかみを抑えて「問題大有りです」と呟いた。

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