カラクリピエロ

ななこなでしこごっこ?


※七松視点





名前、見ろこれ!可愛いだろう!」
「…自分で言いますか…確かに、可愛いですけど…」

文化祭の模擬店用のパペットとギニョールを両手に嵌めて突撃すると、名前はパチパチまばたきをして、わたしの両手に嵌った人形を見て困ったように笑った。
女子供はこういう類が好きなやつが多いと聞くが、名前も例に漏れず好きらしい。
興味深そうにパペットをじっと見て、わたしがパクパク動かしたままの口に指を近づけている。

――むずむずする。
ん、ちょっと違うか?

わたしはそれ以上我慢しきれず、じれったい速度で近づいていた名前の指をパペットの口で挟んだ。

名前は大きく目を見開いてびくんと肩を震わせたあと、ふにゃりと顔を緩ませる。それを見てドキッとした。怒ると思ったのに。

「可愛いすぎるだろ!」
「!? なんですか藪から棒に」
「いや、ここは待つ。わたしは待てる」
「はぁ…よくわかりませんが…頑張ってください」
「頑張る。だから接吻してくれ!」
「せっ……は!?なにを、急に、ば、ばかですか!!」
「先輩にその物言いは失礼だろう」
「七松先輩に遠慮してたら私の身が持ちません。っていうか、だからの意味もわからな…近いです!」
「いて、」

手のひらがわたしの顔にあたる。実際は全然痛くなかったけれど、反射的に口から飛び出た『痛い』に名前は一瞬“しまった”って顔をした。
すぐに元の怒った顔に戻ったけど、これを見逃すのは惜しい。

名前、痛い」
「じ、自業自得です!」
「よし。もうお前に治してもらうしかないな。ここんとこにちゅってするだけでいいぞ!」
「よくない!!もう滅茶苦茶じゃないですか!」

背中を見せるのを本能的に避けているのか、後ろ向きでわたしから逃げていた名前はぎくりと動きを止めた。止めざるを得なかった、が正しいか。

「――自分のいる位置は常に把握してないとな」

後ろの壁をちら見して、ぎこちなくわたしに視線を戻す名前に笑う。
妙におびえている名前を見て、脅すつもりはなかったんだがと頭をかいた。

そういえば人形嵌めてたっけ。

感触で思い出し、名前とパペットを見比べる。
手で口を動かしながら名前に向けると、名前は素早く何度か瞬いてパペットを見た。
ぐっと近づけて名前の顔に押し付ける。勢いが良すぎたのか「ぶっ」と苦しそうな声が漏れた。

「ちょっと、七松先輩!?」
「ははっ、身代わりだ」
「身代わりって…」

口元に押し付けられた人形をわたしの手から抜き取った名前は真っ赤になって呟く。
混乱しているのか、自らの手にパペットを嵌めてパクパクさせた。

「七松先輩は自分勝手です。私の話聞いてくれないし、暴君だし、本能に忠実だし…」
「それは違うぞ名前。本能のまま行動したらお前は壊れるから、わたしなりに我慢してるんだ」
「さらっと恐いこと言わないでください!」

名前はわがままだな。
他は否定しないのかとぶつぶつ言っている唇に目が行く。

――やっぱり我慢は苦手だ。

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