カラクリピエロ

かならずきみをてにいれる


※七松視点





細い肩に細い腰。少し体重をかけただけで簡単によろけるひ弱っぷり。
食べる量なんていつ見てもわたしの半分以下で、これでは倒れても仕方ないんじゃないかと思わずにいられない。

「あの、七松先輩」
「ん?」

なんだ、と返しながら手首を掴む。やっぱり細い。
ふと視界に入った自分の腕と比べるようにして袖をまくると名前は「ぎゃっ」と声をあげながら肩を跳ねさせた。

「な、なんなんですかいきなり!っていうか重いです近いです離してください!」
「……うーん…やっぱり折れそうだ」
「…………折らないでくださいね?」

ビクビクしながらわたしを見る様子は、小動物を思い出す。
プルプル震えるような……うん、ウサギみたいだ。色は白!

名前は可愛いな」
「は!?」
「なあ、そろそろわたしのものにならないか?」
「……中在家先輩はどちらにいらっしゃいますか。立花先輩でもいいんですけど」

はぁ、と何故か盛大に息を吐き出して、名前は長次か仙蔵の所在を聞いてきた。
知らないと答えると目に見えてがっかりするから、慰めるべく頭を撫でたらすかさず「痛いです」と文句が返ってきた。
また加減を間違えたらしい。

『小平太は馬鹿力なんだから、お前が思うより加減しないと壊しちゃうよ』

って伊作に言われたっけ。
そのせいで備品がどうのこうのと留三郎も言ってた気がするが、まぁいいか。

「これならどうだ?痛いか?」
「……いいえ……ですが、もう充分なので、離れてくれませんかね」
名前は文句ばっかりだ」
「いきなり後ろから突撃されてわけもわからず肩やら腕やら掴まれたあげく会話かどうかも怪しい問答に付き合ったんですからそろそろ解放してくださいとお願いしてもいいと思いませんか」
「すごいな!そのセリフ回しは仙蔵譲りか?」

素直に感心してそう言うと、名前は思い切り嫌そうに眉間に皺を寄せながらも「かもしれませんね」と呟いた。
ふと皺が寄ったままの眉間に指をあてる。

「せっかく可愛いのに台無しだ」
「なっ、」
「お、赤くなった。ついでにあったかいな!」
「い…、意味がわかりません!」

教える代わりに朱色に染まった頬をつつく。
眉間とは違ってふわりと柔らかいそれは触っていて気持ちがいい。ふにふにだ。

「ちょ、や、め、」
「……頬でこれかー……」
「だから意味が…」
「ん。色々触ってみたくなる」
「っ、じ、自分のをご自由に、好きなだけ触っててください!」
「馬鹿だな。自分を触って何が楽しいんだ」
「世の中にはそういう方もいらっしゃいます」
「わたしは違うぞ」
「潮江先輩とか好きそうじゃないですか。努力が実ったのを実感するた、め…に!?」
「そうだな。仙蔵も好きそうだ」

もぞもぞと身じろいで逃げ出す様子を見せる名前に答えながら、ひょいと抱き上げて肩に担いだ。

「な、七松先輩!?」
「あのな、名前。わたしはつい先日仙蔵を言い負かしたぞ」
「……は!?七松先輩が、立花先輩を、ですか!?な、え?夢の話じゃなく!?」
「現実だ!聞きたいか?」

いつもなら叫びなり文句なりが飛び出す口から、素直に「はい」と返事が降ってくる。
それが妙に嬉しくて名前を横抱きに抱えなおした。

「“お前のしつこさには呆れる。好きにしろ、ただし自分で口説き落とせよ”…だったな、確か」
「…………それはなんと言うか、根負けという感じでは」
「どっちでもいいさ!」
「はぁ、まぁ先輩がそれでいいなら……っていうかどこいくんですか!降ろしてください!」
「あははっ、遅いぞ名前!ちなみにわたしの部屋だ!」
「は……は!?なん、どう、え…、ええ!?」

大きな声を出した名前は何度も瞬いて、口もぱくぱくさせている。
名前はわかりやすいなと笑うと「よく言われます」とやけにあっさり返された。
視線を下げると丁度目が合う。かぁ、と赤くなる名前を見て嬉しくなる。勝手に顔がにやけてしまった。

「と、とまってください!行きません!部屋行きません!!」
「だって女を口説き落とすならゆっくりじっくりが効果的なんだろう?」
「だ、だれが…そんな、」
「長次の読んでいた本に書いてあった!」
「そそそそんなの素直に信用しないでください!!」

もしかして名前には通じないのか?
疑問が浮かんだせいか速度がわずかに緩む。
それに名前がすぐさま反応したおかげでわたし自身も反応できた。

「っ、」
名前は反射神経がいい、と言ったのはわたしだが…わたしも反射神経には自信があるんだ」
「……ええ、そうでしょうとも……」
「ついでにな、文次郎の言葉を思い出したぞ」

『何事もまず試す!実行する!そうでなくては効果がわからんだろうが!』

忍術の鍛錬の話だったと思うが、もっともだなと納得したのを覚えている。
それを名前に伝えてやると、名前は小さく舌打ちした。

「余計なことを…!!」
「大丈夫だ!片っ端から試してやるからな!」
「試さなくていいです!」
「まずは――」
「わーーーー!聞きたくありません!!」

言いながら耳を塞ぐ名前を視界の端に入れながら、わたしは一直線に部屋を目指した。






「長次!いいところに!名前をつれてきたぞ!」
「…………そうか」
「お?どこいくんだ?長次も一緒にやろう!」
「な、中在家先輩!よかった!助けてください!」
「…………」
「まず…なんだったっけ?」
「(本当にやるつもりだったのか)…………恋歌だ」
「よし、パス!」
「…潔すぎて言葉もありませんよ」
「落ちたか?」
「全然です。すみませんがぐらっともきません」
「厳しいな!」

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