カラクリピエロ

05.約束


トヨホウス河のイカダ前。荷物を積み込み終わるのを待ちながら、ナマエは隣に立つティトレイを見上げた。


「ティトレイ、わたし…あなたに言いたいことがあるの」


いつになく真剣なナマエの表情に、ティトレイはゴクリとつばを飲み込んだ。
妙な動悸までしてきやがる、と内心で呟き、軽く唇を舐める。


「な、なんだよ改まって。今じゃ駄目なのか?」
「…うん。長くなりそうだから…でも帰ってきたら絶対言うから、待っててくれる?」


服の胸元を握るナマエは俯き気味で、ティトレイを見ない。
不安の表れかと思いながら彼女の頭に手を置いたティトレイは、やや乱暴にナマエの髪を混ぜた。

ぐしゃぐしゃになった髪に呆然とするナマエ。目が合うと、ハッとしたように目尻を釣り上げた。


「な、なにすんの!納品だけじゃなくて交渉もあるのに!!知ってるでしょ!?」
「よしよーし、元気でたか?」
「な……もう、ティトレイ……」
ナマエのことならいくらでも待っててやるからさ、ちゃんと元気な姿で帰って来いよ」
「…うん。でもこれは直してね」


しおらしい態度を一変させて後ろを向いたナマエが櫛を差し出してくる。
いつだったか…たしか興味本位でやらせてもらったときは『ドへたくそ!』と思い切り罵られたんだっけな。


「…初めてなんだからしかたねぇだろってな」
「え?」
「なんでもねぇよ…ほい、完成!」
「うん、綺麗!」


手鏡を出して出来栄えを確かめたナマエが満足そうに頷く。
妹がいたらこんな感じなんだろうな。
ティトレイは嬉しそうな彼女の頭を撫でそうになる衝動を懸命に抑えた。


ナマエ、これ持ってけ」
「なにこれ、リボン?」
「御守り…みたいなもんだ」
「あ、セレーナさんとお揃いだね。ありがとティトレイ!」


そろそろ出発だよ、と声がかかり、ナマエは身軽にイカダに飛び乗る。
グラグラ揺れるそれに「ナマエちゃん!」と咎める声が上がったけれど、彼女は軽く謝って流してしまった。


「それじゃ、いってきます!」
「おう!頑張ってな!」


大きく手を振って見送るティトレイに、ナマエは髪を押さえながら笑顔を返す。
ティトレイはナマエの姿が米粒大になるまでその場にとどまり、仕事のために工場――ペトナジャンカへ向かって足を踏み出した。

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