カラクリピエロ

PHASE.1 堕天峰 03


彼が遠ざかったのを確認して大きく息を吐き出した。
腕にしがみついたまま微動だにしないフィンネルに身体を寄せて、コツ、と軽く頭をつく。


「フィーンネル」
「あ、う、うん、ごめんね!今、」
「うん?…ああ、違うよ、詩魔法じゃない」
「でも」
「うん。まあとりあえず聞いてくれる?コレくらいの怪我なんて慣れてるんだからほっといても平気」
「ダメだよ!」


思いのほか強く言われて戸惑ったものの、ナマエも譲れない。
とはいえ、立っているのが辛いのは事実なので、フィンネルを伴ってその場で腰を下ろした。


ナマエ、早く」
「……そりゃフィンネルがやってくれるっていうならお願いしたいけど」
「やるに決まってるよ!」
「ありがと。でもね、これはぼくが悪いんであってフィンネルは全然悪くないんだ。それはわかる?」
「…………あたしの、せいだよ。だってナマエがあたしを庇ってくれたから」
「ぼくがしたかったからしただけね。っていうかフィンネルが怪我してたらそれこそ最悪だよ。で、避けきれなかったのも当然ぼくの実力不足」


でも、と続けるフィンネルのほうが怪我をした自分よりも痛そうな顔をしている。
ルーファンの言葉はフィンネルにとって抜けない棘のようなものになっているのかもしれない。


「…ごめんね」
「え?」
「ん…今のごめんは…自己満足」


どうしてもっと早くルーファンの口上を止めなかったのか。
なぜルーファンがいきなり嫌味を言い出したのかもわからないが、彼に対する感情がより悪いほうへ傾いたのだけは確かだった。


(次があったら、絶対止める……っていうかないほうがいいんだけど)


たくさんの疑問符を浮かべるフィンネルに笑いかけ、頭をなでようと腕を上げたところで痛みに顔をゆがめてしまった。


「は、はやく!怪我したとこ見せて!」
「ええー…でも脱ぐのはヤだ…」
「脱げるとこまででいいから」
「ちょ、ちょ、ちょっと!まっ…痛い痛い痛い!」


ぐいぐい服をひっぱりだすフィンネルを止めようとするものの、痛みが邪魔をする。
苦肉の策として、ナマエは服の袖を落とすことを選んだ。
腕が上がらないから、ともっともらしい理由をつけて。

自前の小刀で布を裂く。
血を吸って重くなっていたから丁度いいと思うことにした。


「痛そう…」
「んー、まあ、それなりに。…ね、フィンネル」
「え?」
「さっきのあれ、やってよ」
「えぇ!?で、でも…痛いんでしょ?」
「…しまった、言うんじゃなかった」
「…………ナマエ


呆れ混じりに笑ったフィンネルはしょうがないな、と言いながらそっと傷口に手を翳した。
触れることはせず、熱が伝わる程度の微妙な距離。
傷が回復していくのを感じながら、ナマエはいつになくフィンネルに甘えてるなと苦笑した。

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