カラクリピエロ

PHASE.1 堕天峰 02


(…なんか、ぼくダメかも)


今はそんなことを考えている場合じゃないのに。

遠くで戦っている音がする。アオトたちだろうか。

近場にいた兵士はルーファンが倒したのか、やけに静かだ。

気配に顔を上げるとすぐ傍にルーファンが立っていた。
普段どおり笑顔だが、それが不自然な気がして様子を伺う。


「――怪我ですか?君らしくもない。君ひとりならあれくらい簡単に避けられたでしょうに」
「……?」


やはりいつもと違う。
ルーファンの纏う雰囲気に警戒を強くして、ナマエは眉を寄せた。

いつもの――ゲンガイについているときのルーファンは穏やかで、自ら争いを仕掛けるようなことはしない。


(…と、思う。少なくともぼくの知る限りでは)


突っかかるのはいつでもどこでもナマエが先だ。
なのに――なにかがおかしい。


「そちらの…彼女はレーヴァテイルでしたよね。ナマエが怪我をしているのに何もしないんですか?」
「ッ、あ、い、今…」


口元は弧を描き笑みを形作っているのに、目は笑っていない。
ビクと震えたフィンネルの振動が伝わってくる。


(どうしてだ…?)


明らかにフィンネルは悪くない。
彼女を庇ったのは自分の勝手だし、そもそもレーヴァテイルが傷を癒してくれるのだって好意からであり、義務でもなんでもないのに。

ますます不審をあらわにするナマエにルーファンは気づいているはずだが、その口は止まらない。


「そもそもナマエが怪我をしたのは、」
「ルーファン」
「……失礼。どうやら少し気が立っているようです」


強引に割り込み、ルーファンの言葉を遮る。
その理由すら笑顔で告げる意図がわからない。


「さて、あちらはアオト君たちに任せて大丈夫そうですし、僕は堕天峰の中を見回ってきます。先ほどの極限病患者は始末しましたが、念の為気をつけてください」
「…………。…一応、礼は言っとくよ」
「ええ、どういたしまして」


いきなり話を切り替えたルーファンに言いたい事は多々あるものの、これ以上会話を続けていたらキレる自信がある。
いつもならタツミか五条が止めに入ってくれるが、今の彼らにその余裕はないだろう。

Powered by てがろぐ Ver 4.4.0.