カラクリピエロ

PHASE.1 堕天の道 08


「代わりって言ってもなぁ…ぼくとアオトと先生じゃ微妙にバランス悪いと思うんだけど…」


ひとりごちながら、ナマエはタッタッと足を進めている。
徐々に上り坂になっていくのは堕天峰に近づいている証拠だ。
既にゲンガイはもちろんタツミの姿も見えない。
やはりボードに乗っていったのかと考えるとタツミが追って正解だったのだろう。


「おいナマエ、止まれ!」
「え?」


アオトの声に反応して振り向くと、彼を筆頭に少し距離を置いてフィンネル、サキ、五条が続いている。
走るのをやめたナマエは余韻で2、3歩進んだところで止まった。


「どうしたの」
「どうした、じゃねぇよ。お前、足、速すぎ」


すぐに追いついてきたアオトは軽く息切れを起こしている。
焦りはわかりやすく外に出ていたらしい。自身に苦笑してアオトに謝った。


「俺は別にいいって。あいつらがな。おーい、大丈夫か?」
「はぁ…はっ……、ダメ、かも……」
「ご、ごめんなさい、サキ、足遅くて…」
「これは、かなり……ふー…、運動不足が身に沁みるね」


さすがにこれ以上を強行軍で進むのは無理そうだ。
ナマエはチラリと堕天峰の方を見据えてから、少し休憩しようと提案した。







「だからさー、ぼくの得手は遠距離かタイマンでの至近距離なわけ」
「なんでそんなに極端なんだよ」
「それは秘密」


とりあえずのフォーメーションはどうしようかという話になり、ナマエは試しに草むらに向かって小刀を一本投げた。
トス、となにかに当たる音に続いて魔物の鳴き声。


「…ね?」
「なにが」
「え、だから、遠距離は得意っていう証明?ちょっとタイプ的に先生と被るかなーと思うんだけど」
「…僕はさすがにそこまで正確にはいかないけどね」
「そりゃ先生は医者で研究者で普段インドアだもん」


五条はナマエの言い草に微妙な表情を作り、曖昧な返事をした。
それを見て何度かまたたいたナマエは苦笑し、当たり前だよと付け加えた。


「あのね先生。ぼくは専門でやってて、しかも結構年季あるからさ。同じ腕前って言われたら凹むしかなくなるでしょ」
「じゃあ至近距離でいきゃいいじゃん」
「アオト…ぼくタイマンで、って言ったよね。普段の戦闘には向かないよ」


使えねぇのか、と呟いたアオトにナマエの眉がぴくりと反応した。

ナマエの右腕が微かに動く。
それに気づく余裕もなく、投げたものとは違う細身のナイフがアオトの喉元に当てられていた。


「――なっ」
「あ、動かないで。毒塗ってあるから」
「はあ!?ちょ、何、言って、」


焦りながらアオトはナマエを見やり、口をパクパクさせた。
それに満足したナマエはあっさりナイフを引いて、またも手品のように手元から消してみせた。


「ね?」
「…………なにが」
「使えないわけじゃないんだよ、実戦向きじゃないだけで」
「ッ、な、なら口で言えよ!超怖かったじゃねぇか!!」


にっこり笑うナマエに顔を蒼くしたアオトが文句を言い、額を拭う仕草をした。


「ごめんねもうしないから」
「ったりめぇだバカ野郎!」
「うわ、バカとか酷くない?ね、フィンネル」


いつの間にか近くに来ていたフィンネルに話かけてみたが、表情が硬い。
どうしたのかと首を傾げてみればおもむろに「さっきの見せて」と言ってきた。


「さっきの?」
「…アオトに見せてたやつ」
「見せてもらってたように見えたのかよ!」
「う、うるさいなぁ、アオトは黙ってて!」


妙に必死な様子なのが気になったものの、ナマエは少し考えて首を振った。
どうして、と聞きたげなフィンネルに苦笑して、今度ははっきりダメと告げる。


「危ないから、君には見せられない」
「ってことはさっきのマジだったのかよ!!」
「え、ちゃんと『毒だよ』って言ったよね?」
「っざけんな!!」
「うわ、ちょっと、危ないって!」
「一発殴らせろ!」
「丁重にお断りします。ほら、フィンネル避難避難」


急に口数が少なくなったフィンネルの両肩を押して移動させる。
アオトは興奮しているのか武器まで取り出していて、本気で危険だ。


(あれで殴らせろとか冗談じゃないって)


アオトから逃げながらフィンネルの様子を伺う。
なんだか元気がないような。


「……そーま」
「ん?なにか言った?」
「う、ううん、なんでもない!」


気になったものの、すぐ脇をアオトの武器(ドリル?)が通りすぎたため追求よりも逃げを先行させる。
丁度いいから休憩終わり、と談笑していたサキと五条に告げ、一行は堕天峰に続くルートへ戻った。

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