カラクリピエロ

PHASE.1 堕天の道 04


「づっ、ぅ……」


巨漢のレーヴァテイルが紡いだ詩魔法で吹っ飛んだナマエは全身を地面に叩きつけられ、そのまま音を立てて転がった。
息が詰まる。苦しい。
口の中に砂利が入り込むのを不快に感じながら薄く目を開ける。


「はっ……、ッ、……ゲホッ、ゲホッ……」


――くそっ。
悪態をつきたいのに声がでない。
じわじわと少しずつ痛みが増していく感覚に身体を丸めると、影が落ちてきた。
焦点の定まらないナマエの視界にぼんやりと映ったのは薄紅色。その色合いを見て、ナマエは遠く故郷に咲く花へ想いを馳せた。
そろそろ彼の地の花は見頃だろうか――逃避しかけた思考を、痛みと自身を呼ぶ声が強引に引き戻す。


「――…、…!ナマエ…ん、…ナマエさん…!」
「サキ、あまり揺らさないほうがいい。詩魔法を頼めるかい?」
「は、はいっ」


身体に触れていた手が離れ、代わりに色々な声が聞こえる。中には久々に聞く声も混じっていて、先ほど見えたゲンガイの姿が幻では無かったことを実感した。



「そっちのなよっちい女男はもう終わりかぁ!?ハッ!見た目通り随分と軟弱じゃねぇか!…なあ、やっぱりアタシは強いよなあ!?」



――はい、ミュートさま!
――あの米つぶ男だって今度は片手で一捻りだ!
――さすがです、ミュートさま!


朦朧とする意識の中で聞こえてくる高笑いにギリ、と奥歯を噛む。
それを宥めるように、ナマエの身体を温かい空気が包んだ。こんな風に、レーヴァテイルが紡いでくれる音律は優しいものがいいと思う。少なくとも対人間に関してはそうあってほしい。


「……ナマエさん、ここまでありがとうございました。サキ、ナマエさんにはたくさん助けてもらっちゃいましたね」


サキ、と呼びかけの言葉は音になっただろうか。
彼女から別れを告げられている気がしてならない。先ほどから耳に届いているのは五条やゲンガイが戦っている音に違いないのに、動けない。

今すぐ加勢に行かなければと思いながら、サキの笑顔から目が離せなかった。


「……サキ…君は一応人質なんだから、勝手されるとぼくが困る」


ナマエは何かを言いかけたサキの腕をつかみ、言葉を割り込ませた。
――やっぱりサキはクラスタニアに――彼女はそんなことを言い出しそうだと先読みしての行動だった。


「でも、」
「もし君がぼくのためにクラスタニアへ行こうって考えなら、無駄だからやめたほうがいいよ。サキがあっちに行ったとしても、ぼくはクラスタニアに楯突いた人間として目をつけられたんだから」


目をつけられているのは前からだ。
今回の件で見つかる可能性が高くなっただけで、ナマエ自身は状況に大きな変化があったとは思っていない。


「それは…ナマエさんは関係ありませんって、サキがお願いします」
「サキ……それは無理。まずぼくがさせないし、もし“お願い”できたとしても向こうが絶対受け入れない。断言してもいいよ」


うつ向いてスモックの裾を握るサキは目に見えて気を落としている。
言った内容は本心だが、自分が自由に動けないもどかしさからか言葉に棘がまじってしまった。


(――八つ当たりなんて最低だ)


ナマエは軽く自己嫌悪に陥りながら、サキにごめん、と小さく声をかけた。

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