カラクリピエロ

PHASE.1 トコシヱ 07


診療所へと歩を進めながら、ナマエは難しい顔をしてため息をついた。

フィンネル――友人であり五条の患者でもある彼女について、ナマエも多少は知っている。ナマエの世界、メタ・ファルスでは稀少なβ純血種レーヴァテイル。
この世界でも、クラスタニア以外では稀少だと五条から聞いていた。

先ほどのやり取りで、フィンネルの“さがしもの”はタツミで十中八九間違いないだろう。
ナマエと同じ世界からきた、この世界にとって未知のレーヴァテイル。


(――?)


ナマエは微妙なひっかかりを覚えて口元に手を当てた。
自分は何か忘れているんじゃないか。
重要なことである気がするのに思いだせない、すっきりしない。

代わりに脳内にフラッシュバックしたのはこの世界に到着した、あの日の光景。
クラスタニアのマークを持つ戦艦、エマージェンシーを発しながら墜落した機体――動かない少女。
ジャクリの話と随分違うじゃないか、とその時は筋違いに気づきながらも心の中で彼女を責めた。

レーヴァテイル国家だというソル・クラスタ。
最近では“クレンジング”とやらが横行し、益々レーヴァテイルの地位が上がっているらしい。

ナマエはクラスタニアが苦手だ――敵だ、と強い言葉に換えられるほどに。

あの日から、目立たないよう街に溶け込み住人と接しながらも、ナマエは自分の一定以上の領域へ踏み込ませる相手を選んでいる。
五条とゲンガイ、同郷の二人。関わる対象は少ないほどいい、これ以上増やさない。
そう決めていたのに――



『あなたがルーおばさんが言ってた子かな。あたしはフィンネル、仲良くしてね!』



ナマエ…今日元気ない?…あの、あのね、そーゆーときは、夜空を見上げてみるといいよ!今度よく見えるとこ、あたしが連れてってあげる!』



『もー最悪だよぉ……なにって、お客さん!…………あたしのせいかなぁ……やっぱりあたしが、悪いから……あーあ、みんなナマエみたいなお客さんならいいのに…』



明るくて元気で優しい。
少しドジで素直すぎるとは思うが――それをやたらと気にして自己評価が恐ろしく低い女の子。

彼女は少しずつ、だが着実にナマエの領域に入り込んできている。
さっきだってそうだ。
泣かせたくない――すでに放っておけないと思う相手になってしまっていた。

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