カラクリピエロ

PHASE.1 トコシヱ 05


店の裏手、居住スペースに入り込んだナマエは素早くフィンネルの姿を探す。

隅のほうで小さく踞っている彼女を発見したナマエは、具合が悪いのかと声をかけた。


ナマエ…、なんで…?」
「…聞きたいことがあったんだけど、大丈夫?先生に診てもらったほうがいいんじゃない?」


そういえば定期健診について伝え忘れていた。
丁度良いとばかりにフィンネルに話すと、彼女は眉根を寄せてうつ向いてしまった。


「忙しいなら無理することないよ。先生なら都合つけてくれると思うし…って、健診のことはいいんだよ。具合の方は、」
「ぜんぜん平気だよ、ごめんね。…あたしも、ちょっと混乱してて…」


きゅっと胸元を握る仕種を目にとめて、ナマエは思い切って質問してみた。


「……もしかして、その光る宝石に関係してる?」
「! な、んで…わかったの?」
「…………」
ナマエ…?」
「や、うん…引っかけようって気が無かったって言ったら嘘になるけどさ」


頭を掻くナマエに、もっとわかりやすく言ってよ、とフィンネルが呟く。


「つまり、フィンネルは隠し事に向かないってこと。……その宝石について、ちょっと聞いてもいい?」


瞳に動揺を色濃く映したフィンネルは、明らかに身構えてナマエを警戒している。
安心させるように笑顔を向け、「君が答えられる範囲でいいよ」と付け足した。


「…う、うん、それなら…」
「ありがとう。単刀直入に聞くけど、どんな条件で光るの?」


フィンネルはゆっくり瞬いて言葉を選んでいるようだ。


「……これはね、あたしが探してるものに反応して光るの。…絶対、見つかるはずないって思ってたのに…」
「……見つけたくなかったみたいに言うんだね」


つい口を挟むと、フィンネルはハッと顔を上げて悲しそうな顔をした。


「そんなはず、ないよ。あたし…は、ずっと、」


言いかけて首を振るフィンネルは苦しそうだ。
震える声は今にも泣き声に変わりそうで――ナマエは彼女との距離を詰めた。
顔が見えない近さで自分よりも低い位置にある頭をなでる。


「ごめん、フィンネル。ぼくが無神経だった……もう聞かないから…泣かないで」
「…、ふふっ、泣いてないよ。ナマエは早とちりだなぁ。聞かないでくれるのは助かるけどさ。…あたし、あんまり嘘上手くないし」
「確かに」
「そ、そこはフォローするとこだよ!」
「フィンネルの美点だと思うけどな。おかげで墓穴を掘るのも上手だよね?」


いつもの調子に戻ったフィンネルに安心してからかうと、むきになった彼女がナマエの胸元を叩いてきた。

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