カラクリピエロ

PHASE.1 トコシヱ 03


「…………ナマエ、だよね」
「………………もちろん」


やっちゃったなあ、と内心思いながらナマエは笑顔を作って応対する。

――人当たりがよく、穏やかで優しい少年。

ここへきてから築き上げたナマエ自身のイメージだ。
クラスタニアから目をつけられている身として極力暴力的な要素を持たないように気をつけていたのに、油断してしまったらしい。

うっかり目撃してしまったフィンネルは普段とかけ離れたナマエの雰囲気に戸惑っているようだが、なにごとも受け入れやすい本質をもつナマエは「まぁいいか」と開き直り、いつもどおり彼女に声をかけた。


「フィンネル、おばさんには謝った?」
「え、う、うん…さっき謝ってきた」
「一晩中いないなんて夜遊びでもしてきたの?悪い子だね」
「わ、悪い子ってなによ!それに、あたしのせいじゃ…」
「うん?」


フィンネルが戻ってきたなら自分の役目は終わりだろう。
ルーおばさんから渡されたエプロンを外しながらフィンネルを伺うと、彼女はなんでもないと首を振ってナマエに礼を言った。


「あたしの代わりに働いてくれてたんだよね。ルーおばさんがデザートもサービスするって、さっき言ってたよ」
「ホント!?それなら頑張った甲斐があったなあ……ねえフィンネル、」
「な、なに?」


ビク、と大袈裟に驚く彼女に苦笑してナマエは自分の定位置の席へ向かう。
横に来て一緒に移動するフィンネルに身を寄せて、そっと「さっき見たことは内緒ね」と囁いた。







「お疲れ様、先生」
「ごめんごめん。随分遅くなってしまった…さっきひっくり返したカルテを戻すのに手間取ってね…待っててくれたのかい?」


五条が向かいの席に腰を下ろすのを待ってフィンネルを呼ぶと、再度彼から謝罪が重ねられた。


「今更そんなの気にしないよ。食事は誰かと食べるほうが好きだしね……フィンネル、ぼくいつものやつでお願い」


ナマエが言うと、五条はどこか嬉しそうに笑って注文をとりにきたフィンネルに視線を向けた。


ナマエはすっかりここの常連になっているようだね。僕はとんかつ定食にしようかな」
「かしこまりました!ナマエ、デザートはどうする?」
「食後がいいな」
「デザートなんてついてたかい?」
「先生を待ってる間にさ、フィンネルの手伝いしてたんだよ。そのお礼」


普段なら贅沢であるデザートが食べられることがよほど嬉しいのか、ナマエはいつも以上にご機嫌だ。
五条はそれを見て和み、運ばれてきた食事を食べて満たされる。こうしてきちんとした食事を摂るのは久しぶりだと思った。

ナマエも丁度同じことを思っていたのか、自身の食事を進めながら五条を見て訳知り顔で頷く。


「やっぱりちゃんとした食事って大事だよ、先生。研究に没頭する気持ちはわからないでもないけど、それで倒れられたら困る」
「胆に銘じておくよ」


苦笑して返すと、ナマエが懐を探り「それじゃあこれ」と言いながら一枚のチケットをくれた。


「『よっこらお食事券』、ルーおばさんから先生にだってさ。なに食べても無料なんだから、しっかり食べてよ」
「……ありがとう」

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