#02「遊山」
塞ぎこんでる亮を見ても何も出来ない自分がもどかしい。
こんなモヤモヤ溜め込むなんてオレには絶対似合わねぇ……
ん、やっぱこういうときは遊ぶに限るよな!
YOMOYAMA BBS――“The World”の情報はここに集まる。
とは言ってもこのごろは同じ話題ばっかりだけど。
黒い錬装士(マルチウェポン)、PKKの『ハセヲ』について。
噂ではイコロの太白に続いて「痛みの森」イベントクリアしたとか、頭がイっちゃってるとか、何かを探してるだとか色々あるけど、まぁPKしか相手にしないってんだからオレにはあまり関係の無い話だ。
常にPKに狙われるスリルを味わうのも――これはオレの勝手な想像でしかないが――“The World”の楽しみ方のひとつだろう。
そう。PK好きならここに集え、と最近評判のギルド『ケストレル』のギルドマスター、“がび”の言うように。
――それも“The World”
「……つーかキレてるPCなんかどうでもいいんだよ、なんか他に新しい話題ねぇかなぁ」
カチカチと画面をクリックしていくと、途中で『ギルドメンバー募集、初心者歓迎!』の文字を見つけた。
新規参入の多い長期休暇前の今、新ギルドが設立されるのは珍しくない。
しかしこれは……初心者を引っ掛ける遊びだろうか。それとも新手のナンパ方法?
『初心者大歓迎!先輩プレイヤーが手取り足取り優しくサポートするぜ!
始めたばかりで不安が多いそこの君、俺と一緒に冒険に行かないか?
女の子なら益々歓迎、大サービス間違い無し。
興味があったら声かけてくれよな!マク・アヌの中央広場で待ってるぜ(ハートマーク)』
これで絶句するなというほうが無理だ。
中央広場ってまた目立つところで……ギルドショップから苦情行くんじゃねぇの?
オレはそのときよっぽど暇だったんだと思う。
この記事を投稿してるPC名に見覚えがあったってのと、これが本気の募集ならちょっと本人の意図を聞いてみたい、なんて(ほんの少し、2,3ミリくらいだけど)思いついちまった。
Δ悠久の古都マク・アヌ
ログインして最初に転送されるのは皆ルートタウンと決まっている――Δ(デルタサーバ)ではマク・アヌ、Θ(シータサーバ)ならドル・ドナだ――そのせいなのかは知らないけれど、カオスゲート周辺にはいつも少数のPCがたむろしていることが多い。
軽く周囲を見回すとトレードの相談や過剰にキョロキョロしてるPC(たぶん初心者だ)、時折聞こえる転送音と共に消えていくPCが居たり、逆に現れるPCが居たりと賑やかだった。
そういえばΔに来るのは久しぶりだ。
(いつもは即Σサーバ行っちゃうもんなぁ……)
初心者とトレードを体験してみるのも新鮮かもしれない。
さっき見たBBSの影響か(オレは影響を受けやすい性質なんだ)ふとそんな事を思いつく。
キョロリと周囲を見回していると、ポンと肩を叩かれた。
振り返るとにっこり笑顔の二人組。おっと、おねーさん、露出度高いぜ。
本物でないことは重々承知、それでも目が行っちまうのが悲しい性だね。
思わずジッと見ていると、二人組の片方――男の方が声を出した。どうせならおねーさんの声を先に聞きたかった。
「少年、初心者?」
「初心者なら拙らが懇切丁寧にレクチャーするでござるよ?」
キョロキョロしてたから勘違いされたのか。
しっかし、わざわざカオスゲート前で声をかけてくれるなんて――そんなに初心者へのレクチャーが好きなのか?こいつらもBBSの影響受けてたり?
にこにこと優しげに話しかけてくれているのを無碍にするのも悪い。オレも合わせるように笑い返しながら、右手を挙げた。
「気遣いサンキュ、でも間に合ってるから」
「オトモダチと待ち合わせ?その子も初心者なら一緒にどうかな」
「や、初心者じゃねーから。勘違いさせたんなら悪いけど、Δは久々だったからつい、な。どうせならオレじゃなくてほんとの初心者にしてやって」
苦笑交じりに言うと、二人は数回瞬いてオレから少し離れた。そんなあからさまに距離置かなくても……
「そうでござったか。それなら拙らと貴殿の縁はなかったということでござろう」
奇妙な武士言葉をしゃべる女はそう言って笑い、手を振った。
軽く別れの挨拶をして、その場を後にする。
ドームの扉をくぐると夕焼けに向かっている最中の夕日が目に入って眩しい。
(マク・アヌってこんなだったか?)
初心者から中級者は大体このタウンに集まるはず。
自分だってそういう時期があったのだから、懐かしがるには早すぎると思うのに、ここまで忘れてるなんて……記憶力に自信がなくなる。
中央広場に行く前にグルッと回ってこよう。
(――あの人だかりは5分10分じゃ捌けないだろうしな)
下り階段の先、日時計になっているモニュメントの一角がやたらと騒がしい。
きっとあそこに“初心者歓迎ギルド”についてのスレを書いた本人が居るに違いない。
そうと決まれば。
オレは決めた後の行動は早いんだ。
くるりと踵を返すとワープポイントへ向かう。まずは錬金地区から行こう。
海沿いに作られた柵を思い出して、唐突にそこが見たくなった。あそこから見る夕焼けは絶景だ。リアルじゃあんな見事な夕焼けを見る機会なんて早々ない。
始めたばっかりのころはこことエリアの往復で、あの景色がお気に入りだったことを思い出す。
(思い出してきたじゃん)
上機嫌で目的地へ到達すると、右のスピーカーから泣き声交じりの音声を拾った。
「もう嫌だぁ!オイラには向いてないんだ、このゲーム……」
「そんなこと言わないで、ガスパー。まだ始めたばっかりじゃないか。今日は僕離れて行動しちゃったけどさ、明日は一緒に回ろう?ほら、元気出して」
「……でも、オイラ怖い……」
(怖い、かぁ……なんかやーなことあったんかねぇ)
身体を反転させて柵に寄りかかると、ぼんやり二人の会話を拾う。あれ、これって盗み聞きになっちゃう?
泣き出した獣人PCをなだめているらしい青年が「怖いだけじゃなくて……楽しいって思って欲しいんだよ」と言うのが妙に響いた。
最近PKの活動頻繁だし(だからPKKなんてのも噂になったりするんだろうけど)、初心者には厳しいゲームとして名を挙げられることも多くなってきた。
獣人のコはそれ関係で嫌な目にあったのかもしれない。
そういやオレ、初心者のころってどうしたっけなぁ。
記憶の断片を拾いながら柵から身体を起こし、未だにその場に居る獣人と青年の方へ足を向けた。
.hack//G.U.
2788文字 / 2008.03.24up
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