カラクリピエロ

07.家族 or...?


河を下ってサニイタウンへと目的を定めた一行の道案内を買って出たティトレイは、イカダの破損を聞いて誰よりも驚いた。
嵐に巻き込まれてというくだりでググラに詰め寄り、ヴェイグの腕に阻まれる。


「ググラのじいさん、ナマエはどうした!?」
「「ナマエ?」」


マオとアニーの声がハモる。
それは聞こえていたものの、ティトレイの脳内では最悪の事態が巻き起こっていて、それに構う余裕はなかった。


「よ~く聞けティトレイ、嵐が来たのは昨日じゃ。ナマエは先日送り届けるのをお前さんも見てたじゃろうが」
「そ、そっか、そうだよな……っつーか帰りは馬車って言ってたしな…すまねぇ、じいさん…つい焦っちまった」


頭を下げて謝るティトレイに、ググラは無理もないと言って笑った。

イカダ修復に加えて腹ごしらえのため、木材と食材の調達に向かう。
先ほどからそわそわしていたマオ(とアニー)は「ねえねえ」と言いながらティトレイに近寄った。


「なんだ?」
「“ナマエ”って誰?ティトレイの恋人?」
「ぶっ!ば、ばか!誰が!」
「あやし~い、アニーもそう思うよネ?」
「え、あ、あの…その…大切な人なのかな、とは思いました」


思わず噴きだしたティトレイは、マオとアニーの追い討ちに対し、ゴホンと仕切りなおすように咳払いをした。


「あいつ…あー、ナマエはだな、友だちっつーか……妹っつーか、まぁあれだ、家族ってやつだ」
「なーんだ、結局ティトレイはシスコンてことか」
「家族思いって言うんだよこういうのは!」
「お前たち、目的を忘れるなよ」
「は~い!」


ユージーンの仲裁に助かったと息を漏らしたティトレイは、その自分の思考に疑問を覚えた。


(なんで“助かった”なんて思うんだ?)

毎日顔を合わせ、食事を共にし、妹のようだと思っていたのは間違いないのに。
いざ口にすると途端に違和感がある。


(…どうもしっくりこねぇんだよな…)
「ティトレイ、どうした」
「なんでも……いや、うーん……なあ、ヴェイグってクレアさんのことどう思ってる?」
「? クレアは家族だ。ところでキノコはこれでいいのか?」


自分にとってのナマエとヴェイグにとってのクレアは同じようなものじゃないか。
そんな考えからの質問だったのだが、ヴェイグは当たり前のように答えキノコを見せてきた。


「やっぱそうだよな…家族……ってヴェイグ、こりゃ毒キノコだ。よく似てっけど食べられるのはマダラ模様のないやつで――」
「――……なるほど、わかった」


ティトレイの説明を真面目に聞き終えたヴェイグは一つ頷くと、持っていた木材を抱えなおして小屋の方へ戻っていった。

ナマエの家族はどうしているのか。
なるべく考えないようにしていた疑問を思い浮かべてしまい、溜息を吐き出したティトレイは頭を振る。
そのことはナマエが話してくれるまで待つとセレーナと約束した。


「どうもおれらしくねぇ…」


姉が攫われて、実は自分が思うよりも参ってるんだろうか。

思考に耽る間もなく見知らぬ男から毒を手渡され、さも共犯といわんばかりの笑みを寄越された。
それを見送って手元のビンを見つめる。

――八つ当たり対象には丁度いいか。

ティトレイは大きく振りかぶり、毒の入ったビンを力いっぱい投げ捨てた。


「…よーし、ちょっとはすっきりしたな!」


あとは腹いっぱい食べて気分を切り替え、さっさと姉を取り戻した後でじっくりナマエの話を聞くんだ。



張り切って作った鍋が原因で『xx料理人』なんて不名誉な称号をもらってしまったが、賊の撃退と自分への疑いは晴れたようなのでよしとする。

ティトレイは強引に自分を納得させて、修復されたイカダに乗り込んだ。

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