カラクリピエロ

04.ある日


――それからの日々はとても穏やかに過ぎていった。

ティトレイの推薦もあって工場に雇ってもらえたナマエは、今までのバイト経験をフルに活かしてこまごまとよく働いた。
彼女の評判を聞きつけ、時間があるときは雑貨屋や宿屋でも働くようになった。

最初は遠慮して宿屋に部屋をとっていたナマエもさすがに滞在期間の方が気になり、結局ティトレイが確保していた空き家をもらうことになった。


「…で、食事はティトレイが作ってくれるんだから…」
「なんだよ、不満か?」
「ティトレイのご飯がおいしすぎるのは不満」
「なんだそりゃ」
「だって他で食べられなくなっちゃった。セレーナさんもでしょ?」


楽しそうに笑うティトレイが出してくれる食事に唸りながら、セレーナに同意を求める。
彼女はナマエの思ったとおり、そうねぇ、と相槌を打ったあとチラリとティトレイに視線をやった。


「でも、おかげでナマエは毎日家に来てくれて嬉しいわ。ね、ティトレイ?」
「まーな!準備も片付けも手伝ってくれるしな!」
「……鈍すぎるわよ」
「セレーナさん?」


ごほん、と咳払いをしたセレーナは表情を改め、ナマエを見た。


「…心配だわ」


工場の書類をパラリと捲って、納品先の『サニイタウン』の文字を追う。
明日、ナマエは工場で働くガジュマと一緒に川を下ってサニイタウンへ向かうことになっている。
あいにくセレーナもティトレイも別の仕事があって、彼女についていくことはできない。

セレーナの呟きを拾ってくすぐったそうに笑ったナマエは「大丈夫、任せて!」と言いながら胸を叩いた。

バイトの鬼を自称するだけあって、なかなか自分に対しての敬語が抜けきらなかったけれど、こうして気軽に受け答えしているのを見るとこの一年で大分打ち解けたと実感できる。
セレーナは緩みかけた表情を引き締め、武器はちゃんと新しいのを持っていくのよ、と念を押した。


「姉貴はナマエの棒術の腕前知らねぇんだっけ…?」
「知ってると思うけど…ってそんな上段者みたいに言わないでよ」
「よく言うぜ」
「だってほんとに見様見真似だもん…でもさすがにモップはヤバイよね…」
「そりゃ…うん、さすがにねぇな。なあナマエ、久々にやらねーか?」


シュッと拳を前に突き出して、ティトレイが満面の笑みを浮かべる。


「ティトレイ手加減してくれないからやだ」
「手加減したら特訓にならねぇだろ~?つーかナマエだって容赦なくリーチ利用するじゃねぇか」
「利用したって勝たせてくれないくせに!」


片づけを終えて連れ立って家から出て行く二人を見送り、セレーナが小さく笑う。
ああ言いながら、結局広場か工場前辺りで食後の運動をするんだろう。


(冷たい飲み物でも用意しておきましょうか)


やれやれと席を立つセレーナの耳に、始まるぞ!今日はあっちか!?ナマエちゃんがんばれ!等々、騒ぐ幼い子どもたちの声(時々大人の声も混じっている)が聞こえた。

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