カラクリピエロ

最初の一歩はまだ遠く Phase-4


翌日、生徒会室。
仕事をする傍らで美鶴とした話を小田桐に告げてみると、彼は美鶴の予想通りあっさりと「僕でよければ」と言ってくれた。


「向上心のある人間は素晴らしいと思う。いつでも聞きにきてくれたまえ。僕のわかる範囲で答えようじゃないか」
苗字名前は専属古典教師 小田桐秀利 を手に入れた。なーんて…)


冗談めいたことを考えている名前の横で、小田桐は「古典表現はとても美しいと思わないか」となにやら授業を始めている。
これは長引く。咄嗟に判断した名前は当たり障りない相槌をうちながら、仕事をサクッと終わらせて適度なところで引き上げた。





小田桐の授業から逃げる形で階下に降りた名前が廊下を進んでいると、急に家庭科室の扉が開いた。
驚いて立ち止まった名前の前に現れたのはサラサラの金髪を携えた交換留学生、ベベだ。


(金髪=外国=英語!)


カチカチチーン、とイメージ連想した名前はちょうど良いとばかりにベベの腕を掴み、出てきたばかりの彼を再度家庭科室へ押し込んだ。


「オー、名前殿ー!ベベ スゴク驚キマシタ!!心臓飛ビ出ルカト思ッター!名前殿、実ハ ニンジャ デスカ!?」
「女の人の場合はくノ一…ってそうじゃなくて、ちょっとベベにお願いが」
「ソレハ珍シイデス。ベベ、名前殿ノ オネガイ 叶エタイ」


満面の笑みで言われた言葉に甘えて、時々でいいから英語を教えてほしい旨を伝えてみると、ベベは見るからにしょんぼりして「ゴメンナサイ」と謝った。


「英語、ベベモ今、勉強シテマス。ベベノ国、英語チガウデス」
「あれ、そうだったの?ううん、こっちこそごめん。勝手に勘違いしました」
名前殿ト勉強シテミタカッタ」
「?一緒に勉強はできるでしょ?今度やろっか、同好会の活動できなくなるけど」


笑いながら言うと、ベベは嬉しそうに笑って、同意した。


「代ワリニ ベベノ国ノ言葉教エル、デキマス」
「…せっかくだから教えてもらおうかな。ベベの国ではお別れするときの言葉はなんていうの?」
「フフ。名前殿、ベベノ逆デスネ?」


正直、名前は後悔しているのだ。
同好会に所属したその日に、ベベに同じことを聞かれて堂々と「愛してます」と答えたことを。
おかげで同好会に寄った帰りはベベから満面の笑顔で“愛シテマス”と言われてしまい、戸惑うことも少なくない。


「Je t'aime mon amour」


柔らかく微笑みながら紡がれた言葉に、何故か顔が熱くなった。
さようならの響きにしてはやたらと甘く聞こえたせいだ。


名前殿…Je t'aime mon amour」
「え、ええっと…じゅ、じゅてーもなむー!」


聞こえたとおりに真似してみると、ベベは持っていた扇子で顔を隠してしまった。そんなに聞き苦しかっただろうか。
それを裏付けるように「名前殿ハ 禁止デス」とまで言われてしまい、名前はちょっと凹んだ。

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